VRを通じた実験の新たな可能性 宇宙での食事がまずく感じられる理由を示唆
■宇宙以外への利用の可能性も
今回の研究は嗅覚を対象としており、宇宙で食事がまずく感じる原因を直接的に突き止めたものではありません。ただしLoke氏らによれば、VRと通常時との比較で嗅覚に変化が生じることを示したのは今回が初めてであり、孤独感による嗅覚の変化が食事のまずさに関わっている可能性を示したという点では興味深い内容です。またLoke氏らは今回の研究を通じて、次の可能性に期待しています。 今回の研究を含め、VRを通じた体験が五感に影響を及ぼす可能性を示す研究は複数あります。Loke氏らは、宇宙などの特殊な環境における人体の影響を調査する研究を行う際に、高度な実験設備を用意せずとも、VRがその代替になる可能性に期待しています。火星有人探査ミッションのような、長期に渡る宇宙ミッションが計画されている昨今、食事への悪影響は宇宙飛行士の心身の健康を保つ上で無視できない課題です。VRは、このような課題を検証する際に、簡単に実験できる手段として使用される可能性があります。 また、今回を含む複数の研究は、孤独感が食事のおいしさの評価に影響を与える可能性を示唆しています。もしその場合、老人ホームに入居している人など、社会的に孤立している人々についても、同様の影響を受け、栄養状態が悪化しているおそれがあります。Loke氏らは今回の研究が、社会的に孤立している人々の栄養状態を改善する方法の探索に役立つことを期待しています。 Source Grace Loke, et al. “Smell perception in virtual spacecraft? A ground-based approach to sensory data collection”. (International Journal of Food Science and Technology) Will Wright. “Food aroma study may help explain why meals taste bad in space”. (Royal Melbourne Institute of Technology)
彩恵りり / sorae編集部