なぜ今年の夏は「地獄の暑さ」だったのか…これからも地獄が続くかもしれないと専門家が心配する理由
08年の新語・流行語大賞のトップ10に「ゲリラ豪雨」が登場したことに象徴されるように、21世紀に入って大雨の頻度も増えている。1970年代半ばから全国およそ1300地点で自動観測を開始したアメダスで、1時間雨量50ミリメートルを超えた回数などの大雨頻度を見ると、最初の10年間と比較して最近の10年間では1.5倍から2倍程度の大雨の頻度の増加が記録されている(※2)。この原因として、日本近海の海面水温が上昇していることが重要である。海面水温が高いほど海からの水蒸気の蒸発が多くなり、水蒸気をエネルギー源とする積乱雲が発生しやすい。日本付近の水蒸気の増加を裏付ける観測事実もある。海面水温の上昇については、暖流系の魚が北日本でも増えてきているというニュースで実感できるだろう。 ※2:気象庁「気候変動監視レポート2023」59~60ページより。なお、全国的に大雨や短時間強雨の発生頻度は増加している一方、降水の日数は減少している。 なお、アメダスが記録した短時間の大雨の回数がもっとも多かったのは2004年である。この年は、日本列島に台風が10個上陸し、さらに新潟・福島豪雨、福井豪雨といった日本海側の線状降水帯による大雨災害もあった。このように、普段の年とは大きく異なる気象状況になる年もあり、自然のゆらぎが大きいことも忘れてはならない。 ■地球温暖化への「適応」も待ったなし ここまでの説明をまとめると、異常気象は、今年の能登半島北部での線状降水帯のような局地的なものを含めると、細長い日本列島のどこかで毎年発生してもおかしくはない。とはいえ、最近は猛暑も増えているし、大雨の頻度が増えていることも事実であり、こうした異常気象の頻度増加の背景に地球温暖化があるのはかなり確かだ。 ただ、中緯度の上空を西から東へ流れる「偏西風」の蛇行が大きくなるなど、自然の変動幅が大きくなるときに異常気象の多くは発生しており、それと地球温暖化による気候変化が重なり合って近年の異常気象の頻発につながっている。 昨年、今年とこれまでより一段と暑い夏となったが、今後どうなるのだろうか。もちろん、この2年はエルニーニョ現象などの自然の変動が影響しているのも確かであり、来年以降の状況を見極めることが重要である。しかし近い将来、このような猛暑が当たり前になることを覚悟すべきだろう。 異常気象が起きたときに、これは単なる自然の変動幅の結果なのか、背景となる温室効果ガスの増加に伴う気候変化が影響しているのかどうかは社会の大きな関心事でもある。そこで自然の変動幅をシミュレーションモデルの多数のシナリオで表現し、それと温室効果ガスの影響による気候変化との組み合わせで、異常気象の発生への地球温暖化の影響の程度を示す研究が近年は盛んに行われており、これをイベント・アトリビューションと呼んでいる。 異常気象は命に関わるだけでなく、損害保険、交通、エネルギー、農業や流通など産業各分野にも大きな影響をもたらす。地球温暖化対策として温室効果ガスの排出削減といった緩和策を本格化することはもちろん、近年頻発する異常気象により適応策も待ったなしの状況となっている。政策としても企業戦略としても緩和策と適応策との両輪のバランスが重要であろう。 ※本稿は、雑誌『プレジデント』(2024年11月29日号)の一部を再編集したものです。 ---------- 隈 健一(くま・けんいち) 東京大学先端科学技術研究センター シニアプログラムアドバイザー 1983年気象庁入庁。数値予報課長、観測部長などを経て、2017年に気象研究所長。19年に気象庁を退職し、東京大学にてJST/ClimCORE(地域気象データと先端学術による戦略的社会共創拠点)を推進中。 ----------
東京大学先端科学技術研究センター シニアプログラムアドバイザー 隈 健一