「Wi-Fi 8」は通信速度よりも安定性重視--ユーザー体験と効率の向上を図る新規格
「Wi-Fi 8」は正式には「IEEE 802.11bn」または超高信頼性(UHR)ワイヤレスローカルエリアネットワーク(WLAN)として知られている。長い名称だが、キーワードは信頼性だ。「Wi-Fi 7」のようにひたすら高速化を追い求めるのではなく、接続の安定性と信頼性の向上を目指している。 Wi-Fi 8は通信速度が大幅に向上し、最大100Gbpsになる、と聞いたことがあるかもしれない。この高速化を達成するために用いられる技術は、一部の5G実装ですでに使用されているミリ波(mmWave)だ。いずれにせよ、これは理論であり、実際のところミリ波の実装は難しいとされている。ミリ波が使われるとしても、さらに後の規格である「Wi-Fi 8E」になるというのが大方の見方で、筆者もそう予測している。ミリ波が2020年代中にデバイスに実装されることはないだろう。 なぜWi-Fi 8の安定性が重要かというと、Wi-Fi 7は非常に高速だが(筆者の環境ではNETGEARの「Orbi 970」とAT&T Fiberの2Gbpsプランで1.9Gbps以上の速度が出ることもある)、時々不安定になるからだ。特に、Wi-Fi 7の超高速の6GHz帯を使用すると、安定した接続を維持できないことがある。さらに、メインのルーターからサテライトへのバックホール接続に不具合が生じることもあった。 とはいえ、この点が問題にならない人もいるだろう。他の帯域は問題なく機能している。だが、スピードを何よりも重視する人には(そうでなければWi-Fi 7を使う理由はない)、この不安定さが厄介かもしれない。 この問題の大部分は、規格の問題ではない。筆者はファームウェアの問題だと考えている。幸い、Wi-Fi 8はワイヤレス体験を安定させるために、単純なスループットよりも信頼性と効率を優先することになっている。また、ルーターメーカー各社が引き続きWi-Fi 7実装の完成度を高めているため、デバイスの安定性も向上していくだろう。 Wi-Fi 8はおなじみの2.4GHz、5GHz、6GHz周波数帯を利用し、Wi-Fi 7と同じ最大物理層速度23Gbpsを維持する。真のイノベーションは、Wi-Fi 8がこれらの既存のリソースを最適化して、さらに優れたユーザー体験を提供する仕組みにある。 これらの改善点がどのようなものか見ていこう。 協調空間再利用(Coordinated Spatial Reuse:Co-SR) Wi-Fi 8の傑出した機能の1つがCo-SRだ。このテクノロジーにより、アクセスポイントがデバイスや他のアクセスポイントとの距離の近さに基づいて出力を動的に調整できる。この機能で干渉とWi-Fiの混雑が軽減されるはずだ。Co-SRはシステム全体のスループットを15~25%向上させる可能性があるため、混雑したネットワークでも、接続が途切れることが減り、応答時間が短縮されるだろう。 協調ビームフォーミング(Coordinated Beamforming:Co-BF) 過去のWi-Fiのイノベーションを基に構築されたCo-BFは、複数のアクセスポイントを連携させて、電波をより効率的にアクティブなデバイスへ送信することができる。Co-BFは混雑した環境で特に大きな利点があるはずだ。メッシュ環境では、スループットが20~50%向上する可能性がある。 Co-BFは、実環境で大きな違いを生み出すかもしれない。例えば、筆者の自宅オフィスのメッシュネットワークは、隣人、他の4つのメッシュネットワーク、10以上の Wi-Fiアクセスポイントと競合する。これほどの大量のトラフィックだと、干渉が起こる可能性がある。この問題への対処に役立つなら、筆者としてはどんなものでも歓迎だ。 ダイナミックサブチャネルオペレーション(Dynamic Sub-Channel Operation:DSO) デバイスの機能とニーズに基づいて帯域幅を動的に割り当てるDSOも、飛躍的に進歩した技術だ。スループットを最大80%向上させ、データ転送を高速化することが期待されている。そこまでの改善が実現するかは疑問だが、その目標の半分でも達成できれば大きな前進だろう。