「そんなことまで頼んでない」闇に葬られた山一証券もう一つの「報告書」 朝日新聞の記事で「情報リーク」を疑われた“マチベン”弁護士が真相を語るー平成事件史(19)戦後最大の経営破たん【インタビュー】
■「名ばかり第三者委員会」を評価する委員会立ち上げ ========== 2015年に発覚した「東芝」の不正会計問題。歴代3社長の引責辞任にまで発展したが、「第三者委員会」が、会社側の意向を受けて、監査法人の問題や原発子会社の会計処理を調査対象から外すなど、問題を隠蔽していると批判を受けた。 また「東京電力」の「福島第1原子力発電所事故」の対応については、「第三者委員会」の調査が不十分だと批判された。また東電が「メルトダウン(炉心融解)」を認めなかった背景には、「首相官邸からの指示」があったとする調査結果についても、会社側に有利な事実認定ではないかと指摘された。 ========== ーー日弁連の「第三者委員会ガイドライン」が策定されたあとも、経営者の責任回避のための、「名ばかり第三者委員会」が散見されています。調査結果に対する客観的な評価というのは可能なのでしょうか。 国広弁護士: 「ガイドライン」でもう一つ伝えたいのは、「第三者委員会」が公表する「調査報告書」は「公益的なもの」「公共財である」ということです。そもそも委員会の設置が必要な不祥事は、上場企業グループが起こす場合が多く、企業自体が「パブリックな存在」なのです。 これらの企業の不祥事は、市場で病理現象が起きているのと同じです。第三者委員会の第一義的目的は、企業自体の信頼回復ですが、その結果、社会や投資家からの市場に対する信頼感も回復されなければなりません。 ただ、第三者委員会によっては「日弁連のガイドラインに準拠しました」といいつつ、実質は第三者性のない「お手盛り」の第三者委員会も出てきます。役員に気を使い、原因究明も事実調査も甘い内容です。 そこで、2014年に「第三者委員会」の調査報告書の内容を評価するという「第三者委員会報告書格付け委員会」を立ち上げました。 これは弁護士やジャーナリスト、大学教授らで企業の第三者委員会の報告書を精査して、A、B、C、Dの4段階にランク付けするものです。評価に値しない報告書には「F」とします。 たとえば、私は上記の「東芝」の問題で「F評価」を付けました。いわゆる評価点の外側、論外です。その一因は依頼者側の「東芝」が「調査範囲を限定」していたことです。 株主、投資家たちが最も知りたかったウエスチングハウスの件、つまり「原子力部門の問題」が調査から欠落していたのです。これは第三者委員会の本質に反する行為だと思います。 さらに原因について「利益至上主義」「トップ主導の不正である」と書かれているのに、それがいつから、何をきっかけに、また何が動機なのか、全く調査がなされていませんでした。また「社外取締役」の機能不全などコーポレートガバナンスの問題にノータッチだったことや、第三者委員の選任プロセスの問題など、残念な内容でした。
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