元ホンダ技術者・浅木泰昭氏がシーズン前半を解説! F1パワーユニットのあり方に一石を投じたマクラーレンの躍進
■予想できたレッドブルの失速 ――それはなぜですか? 浅木 2022年の秋にレッドブルの創設者ディートリヒ・マテシッツが亡くなって、組織内でクリスチャン・ホーナー代表とモータースポーツアドバイザーのヘルムート・マルコとの間で権力闘争が起きた。そういう組織は、いずれガタガタになると予想していました。ただ想定よりも崩れるタイミングが早かったので驚いています。 私が知っているレッドブルはとても働きやすいように見える組織だったんです。厳しさはありましたが、チーム内はギスギスしていないですし、みんな和気あいあいという雰囲気で仕事に取り組んでいました。ほかのチームから引き抜きの話があったとしても、レッドブルでのびのびと仕事をするほうがいい。そんな風にスタッフの多くが感じているように見えました。 それがマテシッツが亡くなった後に変わってしまい、ニューウェイだけでなく、最近はスポーティングディレクターのジョナサン・ウィートリーの退団も発表されました。彼らのようなリーダークラスだけではありません。レッドブルを離れたスタッフは数多くいます。 チーム内で権力闘争をやり始めたらどんな悪影響が出るのか、ホーナー代表はちょっと甘く見ていたと思います。あるいは権力を取るためにはゴタゴタもやむなしと考えていたかもしれませんが、騒動に嫌気が差してチームを去る人がいますし、残った人間だってモチベーションを保つのは難しい。だから想定外で開発スピードが落ちてしまったのではないか、というのが私の見方です。
■マクラーレン躍進の背景にあるもの ――レッドブルが停滞する中で、シーズン中盤以降、優勝争いを演じているのはマクラーレンとメルセデスです。 浅木 マクラーレンは着実にマシンを進化させているという印象です。メルセデスも序盤はもたもたしていましたが、中盤戦に入ってレッドブルを上回ってきたというのが現状だと思います。レッドブルを追いかける2チームの中ではマクラーレンのマシンのほうが良さそうに見えます。 フェラーリにも期待していたのですが......。レッドブルがもたもたしているのでチャンスだったのに一緒にもたもたしてどうするんだと(笑)。チャンスをまったく生かし切れていないのが気になりますね。 ――マクラーレンの躍進の理由をどう分析していますか? 浅木 やっぱりレギュレーションで2022年から25年までのPU開発が基本的に凍結していることが大きいと思います。PUの開発ができる状況であれば、ワークスのメルセデスがカスタマーのマクラーレンに負けることは普通に考えるとあり得ません。 例えば、何か設計変更をすれば、カスタマーにその情報が届くのにどうしてもタイムラグが生じます。そのPUの設計変更に対応するためにカスタマーがあたふたしていると、おのずと車体の開発にも遅れが出てしまう。もっと極端な話を言えば、ワークスはカスタマーが嫌がる設計変更をすることもできるんです。 でも現在はPUの開発が凍結されているので、カスタマーのデメリットがたいぶ少なくなっています。それがマクラーレン躍進の背景にあると思います。