世帯年収1000万円弱でも生活は苦しい…“底辺マンション”の清掃員として働く38歳主婦の嘆き
ごみの分別を根本から知らないから
古紙として出すのが、ダンボール。中身を出して畳んでゴミ庫に入れるはずが、中の発泡スチロールを入れたまま、捨ててあることがあったという。しかも、とても強力なビニールテープでまとめて包装している。 「きっと家電製品を購入し、それを取り出して、ゴミ庫にそのまま出した」と東谷は見ている。頑丈なテープをカッターで切り、畳むのに10分はかかる。こんなダンボールが、多い日は5個を超える。 倉庫前に並べ終えるのは、午前7時半前後。1時間半もかかる。その後、エントランスと3階から1階までの階段や廊下の掃き掃除をする。階段や廊下の水拭きは、週に1回。手すりや郵便物入れは毎日、水拭きをする。これらを終える頃に午前9時となる。敷地内の草むしりは、1か月に数回しかできない。ゴミの分別で時間をとられるためだ。 マネージャーにはその旨を書いてメールを送るが、こんな返答が来る。「独身者が多いので、ごみは少ないはず」「外国人が数人住んでいるから、分別ができていないのかもしれない」「家賃が10万円を超えるから、独身者でも生活水準が比較的高い。分別は、ある程度はできていると思う」。
住人の誠意を感じるごみ
東谷は、バカバカしくなる。結婚の有無や国籍、収入額ではなく、分別を根本から知らないのだと思う。東京都、市役所や管理会社、清掃会社が丁寧に繰り返し説明をしていないところにこそ、問題があるとも考えている。 それでも、分別の仕事をするのは生活費を稼ぐためである。そして、心を打たれたことがあるからだ。プラスチック製容器包装を捨てる袋に、オーブントースターがつ1入っていた。20を超えるねじをドライバーでゆるめ、バラバラにしてあった。しかも、トレイや焼き網、本体をそれぞれハンマーらしきものでたたき、ぺちゃんこに潰してある。電源コードは、5センチごとに切ってあった。 「きっと3~4時間かけて、ここまでバラバラにしたのだと思う。たぶん、ほかのごみからして会社員だったはず。仕事を終えてから、マンションの部屋で懸命にこわしたんじゃないかな。大変だった気がする。入れる袋は不燃物にすべきだけど、住人の誠意を感じるから腹が立たない。私もきちんとしないといけない、と思った」 家では2人の子にごみの分別を実体験にもとづき、説明し、教えている。さすがに大人のおもちゃは言えないが、可能な限りでリアルに伝えている。ゴミの分別の最前線では東谷のような清掃員がいる。私たちが生活できるのは、この人たちのお陰でもあるのではないだろうか。 <TEXT/村松剛> 【村松 剛】 1977年、神奈川県生まれ。全国紙の記者を経て、2022年よりフリー
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