家庭裁判所が「共同親権」導入で“パンク”のおそれ…国会の“全会派”が賛同する“裁判官・職員の増員”が「進まない理由」とは?
「裁判官」の人員不足も深刻
共同親権の導入にあたっては、裁判所職員のみならず、裁判官の負担も増大することが想定される。 では、裁判官の増員についてはどうだろうか。共同親権の導入を盛り込んだ民法改正案が国会で可決・成立した4月に、最高裁が弁護士に裁判官と同等の権限を持たせる『家事調停官』の増員の検討等に着手したとの報道があった。その後、具体的に、最高裁が日弁連等に対し何らかの要請ないし働きかけを行ったのか。 日弁連に問い合わせたところ、「回答を差し控える」とのことだった。 しかし、事情を知る日弁連関係者に確認したところ、最高裁から「家事調停官の増員」に関する打診があったことを認めたうえで「それでも到底足りないのではないか」と懸念を示した。 日弁連関係者:「最高裁から日弁連に対し、内々に『数か所の裁判所に新たに1人ずつ家事調停官を置くことは考えられないか』との打診があったようです。 家事調停官の任期は1期2年で、事実上再任されることが決まっているので2期4年務めることになります。つまり、4年ごとに交代で務める弁護士を確保できなければなりません。 管内に弁護士が一定数いて、家事調停官を週1回程度務める意欲と余裕がある人を継続的に出せるようなエリアでなければ難しいでしょう。地元の弁護士会の協力が不可欠です。 また、家事調停官の仕事は、一日中拘束され、顧客から電話がかかってきても出られません。報酬も決して高額とはいえません。勉強になるのは間違いありませんが、それだけで候補者を集めることは難しいでしょう。候補者がいなくて困っているところもあります。 さらに、裁判所の側でも、家事調停官が職務を行うスペースも用意しなければなりません。そういった調整がうまく嚙み合って、ようやく実現することです」
家事調停官の増員が実現しても「焼け石に水」
そこまでして家事調停官を増員しても、共同親権の導入に伴う負担の軽減には「到底足りず、焼け石に水だろう」という。 日弁連関係者:「まず、全国で数か所だけでは、絶対的に人数が足りません。 また、家事調停官が担当できるのはあくまでも『調停』のみです。 調停で解決しなかった場合には『審判』になりますが、家事調停官には原則として審判をする権限はありません。 共同親権がかかわる事件の多くは、審判にまで持ちこまれることが多いと想定されます。審判を担当する権限のある裁判官を増員する必要があります。 たとえば、ヨーロッパでは、イギリスなど、弁護士が分野に限ってパートタイムで裁判官を務める制度が採用されている国があります。そのような制度を拡充するなど、柔軟な制度設計が必要だと考えています」 共同親権の導入に伴い、その制度上、裁判所の関与がより多く求められることになるのは間違いない。共同親権の制度の目的は子どもの利益のためであり、それを実現するには、裁判官、裁判所職員等のきめ細かな職務執行が求められる。裁判官や裁判所職員、ないしは家事調停官といった人々の「個人の使命感」に依存することには限界がある。 2026年に共同親権の制度が施行されるまで、時間的余裕は少ない。それまでにどの程度、人的・物的な「受け入れ体制」を整備できるか。裁判所、国会には、裁判所職員の抜本的な増員や、「パートタイム裁判官」等の弁護士任官の拡充など、柔軟な対応を迅速かつ危機感を持って行うことが求められる。
弁護士JP編集部
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