家庭裁判所が「共同親権」導入で“パンク”のおそれ…国会の“全会派”が賛同する“裁判官・職員の増員”が「進まない理由」とは?
裁判所の「受け入れ体制」の整備は進んでいるか?
裁判所側で、共同親権の導入にあたっての「受け入れ体制」を整える動きがあるのか。全国の裁判所職員で組織する全司法労働組合(全司法)の中矢正晴委員長は、家庭裁判所の職員の人数が圧倒的に不足していると述べる。 中矢委員長(全司法):「懸念される点は大きく分けて2つです。 第一に、単独親権にするか共同親権にするのか決める段階の問題です。父母の協議で決まらない場合は裁判所が決めることになります。後で詳しく述べますが、それには大変な労力がかかります。 共同親権をめぐる争いはそもそも非常にシビアな事件になることが想定されます。また、これまで、離婚した時に親権を得られなかったことに不満を持っていた人たちが、共同親権を求めて一斉に申し立てを行う可能性が考えられます。 第二に、共同親権に決まった場合の親権行使の場面での『単独で親権を行使できるケースと、双方が合意して行使しなければならないケースの区別』の問題です。 国会での法案審議でも話題になりましたが、この問題は、関係省庁の担当者でさえ回答に窮するものもあり、必ずしも明確ではありません。父母で話し合いがつかなかった場合に備え、裁判所が関与して調整するための手続きが設けられました。そのための労力の負担も想定されます」
「家裁調査官」が圧倒的に足りない
全司法は、労働組合として、それぞれの職場から人員の状況について報告を求めている。中矢氏は、「裁判所全体として人手不足だが、特に家庭裁判所に人が足りない」と説明する。 中矢委員長(全司法):「家事事件はずっと増加してきており、しかも、内容も複雑化しているという実態があります(【図表】参照)。 人員不足と相まって、結果として事件処理が遅くなり、期日が2か月先、3か月先と延びていくような状況が既に起きています。 その上、共同親権に関する事件が増えるとなると、対処できないのではないかと危惧しています。 特に、家裁調査官が不足しています。 現在、家裁調査官の定員は全国で1598名です。もともと1523名だったのが、2000年~2004年の司法制度改革のときに、離婚事件等の『人事訴訟』の家裁への移管等に伴い、60名増員し1583名になりました。そこから20年間で15名増員しましたが、現場からは『これまでの規模感では足りない』『もっと増員してほしい』という声が出ています。 また、家裁調査官はすべての家裁の本庁・支部に配置されているわけではありません。必要に応じて近くの庁から『填補』という形で出張してもらって処理しているケースもかなり多いのです。 こうした状況に加えて、さらに共同親権に関する事務も増えるとすると、正確な予測はきわめて難しいのですが、200~300名ほど増員してもらわなければ、とても足りないのではないかと考えられます」
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