家庭裁判所が「共同親権」導入で“パンク”のおそれ…国会の“全会派”が賛同する“裁判官・職員の増員”が「進まない理由」とは?
家裁調査官の役割の重要性
中矢氏は、家裁調査官の役割がこれまで以上に重要になってくると指摘する。 中矢委員長(全司法):「共同親権制度では、子どもの利益が最優先されるべきです。 家裁調査官の重要な仕事は、家庭環境について把握して、子の意思を確認し、裁判官に報告することです。 いきなり子どもを呼んで『どう思う?』と聞くのでは意思を確認したことになりません。父母双方や保育所等の先生から話を聞いて状況を把握し、子どもに信頼してもらうために手紙を出したり、家庭訪問して一緒に遊んだりして、『今度裁判所に来てね』と伝えます。 子どもに質問したときの受け答えの内容だけでなく、表情や態度などから、心理学的な知見を用いて本音を探ります。 夫婦の紛争が続く中で手続きが進み、場合によっては裁判所が親権を決定しなければならない、となると、家裁調査官の役割はますます大きくなります。 事件が簡単か複雑か、表面に現れてくるものだけでは分かりません。共同親権は子どもの利益にかかわる問題なので、家裁調査官による意思の確認をしっかりやらせることが不可欠なはずです。中途半端な形で決めてしまうと、子どもが不幸になります。 少年事件と違って、家事事件については、家裁調査官を関与させるかどうかは裁判官が決めます。共同親権が問題になる事件についても同様です。もし、裁判所が、人員不足を理由として、家裁調査官を関与させない判断をすると、大変なことになります。 子どもの父母も、専門の職員が手順を踏んできちんと関与した場合とそうでない場合とでは、納得感と裁判所に対する信頼が大きく違います」
与野党の全会派が職員の増員に「賛成」なのに…
全司法では、国会に対し毎年、国会(衆議院と参議院のそれぞれ)に対し「裁判所の人的物的充実を求める請願」という請願署名を提出し、通算28回、ここ12年は連続して採択されている(【図表2】参照)。 請願書の提出には国会議員の「紹介」が必要であり、慣例として、委員会で全会派の一致を得なければ採択されない。 採択に至るハードルは高く、採択されること自体がきわめて稀である。にもかかわらず採択され続けている実績から、すべての会派が裁判所職員の増員の必要性を認識していることがうかがわれる。 中矢委員長(全司法):「与野党を問わず、衆参両議院のすべての会派に紹介議員がいます。その中には、共同親権制度の熱心な推進派の方もいます。 また、与野党の全会派の法務委員を訪れて話を聞いてもらっていますが、紹介議員以外にも『家裁の人的物的充実、頑張ってくださいね』と言ってもらえる方もいます。 公務員を減らすべきと主張している政党の委員であっても、『共同親権の問題があるから裁判所職員を増員すべきだ』と賛同してくれています。 党派を超えて賛同を得ていると理解しています」 裁判所職員の定員は「裁判所職員定員法」で定められている。共同親権の導入に伴う裁判所職員の増員について、国会の全会派が賛同しているはずなのに、法改正による増員が実現していないのはどういうことか。 中矢委員長(全司法):「裁判所職員定員法は毎年のように改正されていますが、共産党以外の賛成多数によって、増員がなされずに成立しています。 法案審議の際には『裁判所の事務を合理化、効率化することに伴い人員を減員する必要がある』といった立法趣旨が示されます。 議員の立場からすると、そのことと、共同親権の導入に伴い裁判所職員の増員が必要だということが、なかなか結びつかないのかもしれません」
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