家庭裁判所が「共同親権」導入で“パンク”のおそれ…国会の“全会派”が賛同する“裁判官・職員の増員”が「進まない理由」とは?
最高裁事務総局は「現場の実態」を把握しているか?
とはいえ、この問題を国会だけの責任にするのは酷かもしれない。なぜなら、国会が「裁判所職員定員法」による裁判所職員の増員を行わない重大な要因として、最高裁からの職員増員の要請が行われていないことも挙げられるからである。 すなわち、憲法で「司法権の独立」が定められているため(憲法76条3項、77条、80条参照)、裁判所からの要求がないのに国会が人事に関する事項を勝手に決めるのは好ましくないという「自制」が働いている可能性が考えられる。 裁判所の人的・物的インフラの整備をつかさどる最高裁の「事務総局」は、この問題について、政治部門にどのように働きかけているのか。 最高裁は、財務省に対し、来年度の裁判所の予算について概算要求を行っている。 これによれば、「48名の増員」と「61名の定員合理化等」を求めており、全体としては「減員」となっている。家裁調査官の増員は5名のみ、しかも速記官から家裁調査官への「振り替え」である。書記官・裁判官の増員はない。 最高裁でデジタル関係の企画部門を担当する事務官を43名増員する一方で、下級裁判所の事務官等は61名減員する(うち5名は上述した速記官から家裁調査官への振り替え)。つまり、裁判等の現場にかかわる職員を減らす方向性がみてとれる。 裁判所の人的・物的な体制を整備し管理する立場にある最高裁の「事務総局」は、現場での人員不足の実態をどこまで把握しているのか。中矢委員長は「きちんと伝わっていないと感じることは多い」と述べる。 中矢委員長(全司法): 「労使交渉で事務総局と交渉していて、我々が『職場からこういう話があります』と伝えても、初めて聞いたようなリアクションをされることがあります。 最高裁の事務総局は、下級裁判所の事務局を通じてヒアリングを行っているはずです。しかし、そこからリアルな実態がどの程度伝わっているのか、疑問に感じています。 たとえば、前述した家裁調査官の問題についても、最高裁事務総局が『簡単な事件なら調査官を関与させるまでもなく、裁判官と家事調停官で対応できる』と考えているなら、重大なことを見落とすおそれがあります。 その事件が簡単かどうかは、最初から判断できるものではありません。家裁調査官が調査することによって、初めて明らかになる事柄は非常に多いのです」 裁判所の内部でのコミュニケーションがうまく機能していない可能性がある。従前から、最高裁の事務総局などで司法行政を担うのが「裁判をしない裁判官」であることの弊害が指摘されることも多い。共同親権の導入にあたっては、この問題の解決も急務だろう。
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