「子は親のエゴ」「産んだ時点で虐待」 出生数低下の背景? ネットに蔓延する反出生主義とは
「生まれてこなければよかった」という誕生否定は反出生主義には当たらないとの見方も
ミユキさんのように、自身の不幸な境遇から「生まれてこなければよかった」という誕生否定を反出生主義の根拠に挙げる人は多い。一方、国内での反出生主義啓蒙を目的に2020年に設立された任意団体「無生殖協会」は、誕生否定は反出生主義の要件に当たらないという立場を取っている。同協会の穂積浅葱代表は「主観的な人生の善しあしと、生殖行為の非道徳性については分けて考えるべき」と主張する。 「生まれてよかったにせよ、生まれない方がよかったにせよ、生まれてしまった以上、その生はその人にとってだけの極めて個人的な経験です。私自身は自分が生まれてきてよかったと思っていますが、それは反出生主義を否定することにはなりませんし、同様に『反出生主義者は自分の人生への不平不満を言っているだけ』という批判も的外れ。誕生否定という個人的な嘆きを反出生主義の範ちゅうに含めることは、問題を陳腐化させ、純粋に生殖の倫理性について考える上での妨げになっていると感じます」 無生殖協会には、現在約60人の会員が在籍。月に1回、反出生主義の啓蒙を目的とした街宣活動を行っている。また、それと並行してヴィーガニズム(人間は動物の搾取なしで生きるべきであるとする主義)の推奨を行っている点が、単なる反出生主義とは立場の異なる点だという。 「反出生主義の理想は苦痛を感じる存在を生み出さないこと。当然それは動物にも適用されるべきで、反出生主義でありながらヴィーガンでないというのは一貫性に欠けると感じます。ただ、我々が環境保護団体や動物愛護団体と異なるのは、自然や命ではなく、生の苦痛を取り除くことを至上命題としていること。ほ乳類はもちろん魚類や昆虫など、苦痛を感じる能力があると推定される生き物は等しく作られるべきではなく、ゆくゆくは絶滅すべきというのが当協会の考えです」 日々の街宣活動について、「その場で賛同してくれる人は少ないが、考えるきっかけになれば」と穂積代表。危険思想だと警戒されることはないのだろうか。 「危険な思想だと思いたい気持ちは理解できますが、反出生主義は攻撃や差別を助長するものではなく、苦痛のない世界を目指すためのもの。そのための手段も、ただ生殖をしないことのみで、今ある生や、より良く生きることを否定するものではありません。恋愛や結婚はもちろん、生殖を伴わない性行為も問題ないと考えています。 優勢思想と関連づけられることもありますが、これも大きな間違い。優勢思想は良い遺伝子を残すために障がい者を間引くという差別的な思想ですが、これはある意味健常者を増やしましょうという“出生主義”で、反出生主義とは真っ向から対立するもの。苦痛の排除を目的とする反出生主義が、差別や暴力を肯定することはありえません」 前出の森岡教授は「反出生主義は潔癖主義と理性主義の極致。道徳について徹底して考えれば、生むべきではないという結論に必ず至るはず。だから、生み続けるのは理性を正しく使っていない証拠だ、と語る過激な人もいます」と語る。はたして、子どもを持つことは悪なのか。答えのない問いへの議論は続いている。
佐藤佑輔