新型出生前診断スタートから1年 「命の選択」をどう捉えるか
母体血を利用した胎児の遺伝学的検査、いわゆる「新型出生前診断」が日本で始まって間もなく1年がたちます。検査開始から半年後の11月には「新型出生前診断を受けた3500人の妊婦のうち陽性確定と判定された56人が妊娠中絶を行った」と報道され、波紋を投げかけました。「新型出生前診断」とは何か。この「命の選択」をどのように捉えたらいいのか。東北大学大学院教授・宮城県立こども病院産科部長で、NIPTコンソーシアムメンバー(※)である室月淳氏に聞きました。
陰性的中率は99.9%以上
―――「新型出生前診断」とはどのような検査なのでしょうか。 正式には「非侵襲的出生前遺伝学的検査」といい、英語でNIPTと略します。妊娠10週以降の妊婦の母体から血液を採取して、胎児に染色体異常の疾患があるかを判定するスクリーニングテストで、染色体異常の中で頻度の高いダウン症候群(21トリソミー)、18トリソミー症候群、13トリソミー症候群の3つをスクリーニングします。この検査を受けられるのは、「高齢妊娠(出産予定日が35歳以上)」「以前の妊娠・分娩で子どもが上記の3つの染色体疾患をもっていた」「胎児が13トリソミー、18トリソミー、21トリソミーのいずれかに罹患している可能性が高い(超音波検査でダウン症候群マーカーが疑われたなど)」のいずれかに当てはまり、かつ臨床研究への協力、同意が条件となります。 ―――「新型出生前診断」は非常に精度の高い検査だと聞きました。 この検査は従来のものより格段に精度が高いとはいえ、あくまでもスクリーニング検査にすぎません。たとえば検査でダウン症候群「陰性」となれば、99.9%以上はダウン症候群ではありません(陰性適中率99.9%以上)。すなわち陰性と判定されれば、少しだけ安心できることになるかもしれません。しかし検査でダウン症候群「陽性」となった場合80~90%の確率でダウン症候群ですが、10~20%はダウン症候群ではない場合も含まれています(陰性適中率80~90%)。すなわち改めて羊水検査による確定検査が必要ということになります。 ―――検査の安全性についてはどうでしょう? この「新型出生前診断」が始まるまでは、全国で年間2万人以上の女性が羊水検査を受けていたと言われています。羊水検査は子宮を直接穿刺(せんし)するため、流産のリスクが0.3~0.5%といわれており、つまり2万人の羊水検査において60~100人程度の命が失われていたことになります。そういう意味においては、母体採血による「新型出生前診断」が登場したことで、多くの無辜な命を守ることができるようになったといえるでしょう。