ロータリー復活への秘策 “夢のエンジン”が抱える大きな課題
ロータリーのメリットと課題
さて、こんな変わったシステムを作って一体どんなメリットがあるのかはマツダの技術資料から抜きだそう。 “マツダ独自の技術であるロータリエンジンは、これまで40年に渡り開発が進められてきた。その基本構造はシンプルであるがゆえに小型軽量であり、それでいて高出力を発揮する。全回転域でのフラットなトルク、吸排気バルブが存在しないゆえの振動・騒音の少なさ、高回転・高負荷運転での信頼性・耐久性の高さなどレシプロエンジンに対する多くのアドバンテージがあり、過去に積み上げられたモータースポーツでの数々の栄光がそれを証明している” つまりこういうことだ。 ・シンプル ・小型軽量 ・高出力 ・全回転域でフラットトルク ・低騒音・低振動 ・高回転・高負荷域での信頼性と耐久性 まさに夢のエンジンなのだが、こういうのを見るとロータリーの限界を感じる。世界中で自動車用のロータリーエンジンを作っているのはマツダだけ。研究者も少ない。だから公平な評価を得たくても、利益当事者のマツダが出す資料しか参考にできる資料がない。なので直感的にあまり同意できないことが書いてあってもそのまま書くしかない。 問題は「全回転域でフラットトルク」というところだ。あちこちから情報が出ているレシプロエンジンに当てはめて、エンジン全般に求められる現在の課題を整理すると以下の様になる。 (1) 燃焼効率の改善 a. いかに上手く燃焼をさせてエネルギーを取り出すか b. 炭化水素(HC)、一酸化炭素(CO)、窒素酸化物(NOx)を規制値内にとどめる (2) 機械的ロスの低減 a.ポンピングロス b.排気ロス c.冷却ロス d.摩擦ロス
ロータリーの場合、排気ガスが特に厳しい。NOxは少ないのだが、HCとCOがどうしても多いのだ。つまりガソリンがキレイに燃えていない。それは同時に燃費が悪いことに直結する。なんでそんなことが起こるのかと言えば、燃焼室の特徴に起因するのだ。エンジンのカットモデル写真を見ながら説明しよう。この写真で言えばローターは反時計回りに回る。 この写真で左側に2本生えているのは点火プラグだ。その横にローターとハウジングに挟まれた空間がある。これが圧縮上死点の燃焼室形状になる。ローターの形状が先ほどの写真と違って見えるのはローターの辺に窪みがつけられているからローターを真ん中で切るとこういう形状になるのだ。一方でまゆ型のハウジングは中央部にくびれがある。レシプロエンジンの燃焼室形状を知っていると、極めて扁平な燃焼室形状なのがわかる。 実は燃焼だけに限って言えば、燃焼室の理想は球体だ。プラグで着火した火は全ての方向に均等に燃え広がるので、どこにも燃え広がりルートの遠い部分ができない方が良い。ロータリーの場合、あまりにも理想から遠い扁平な燃焼室なので燃え広がるのに時間がかかるのだ。その結果、遠い部分が燃えきらない。だからこそ点火プラグを2本付けて、2箇所から燃え広がるようにしてあるのだが、それでも完全に燃えてくれない。 さらに、ロータリーの燃焼室は燃えながら移動する。混合気にも当然質量はあるから、ローターが反時計回転するのに対して燃焼が取り残される。この写真でいうプラグから一番遠い下側の先端はなかなか燃えてくれなくなる。 ガソリンの一部が燃えずに出るからHCの排出が多く、同時に部分的に酸素不足が起きてCOも増える。ガソリンの一部はエネルギーに使えないから燃費が悪い。この燃え残りは排気管のなかに電動ポンプで空気を吹き込んで再反応させる。つまり排気管の中で燃やしているわけで、排ガスの後処理としては正しいがエネルギーを捨てていることになる。 かつてのロータリーエンジンは低回転での燃焼が安定しなかった。それはレシプロエンジンと違ってバルブタイミングの制御が燃焼の都合だけで決められないからだ。 ロータリーでは吸排気口の形状とローターの位置関係でバルブタイミングが決まる。ローターがバルブの役割を果たす関係上、オイルを保持するシール類との位置関係で、吸排気口を広げたい方向に広げられなかったのだ。そのために燃焼が不安定になり、それをカバーするために混合気を濃くしてガソリンを余分に使った。この結果、低速トルクが落ち込み、燃費が悪化し、排気の後処理が大変になる。「ロータリーは低速トルクがない」と言われた原因はこれだ。マツダは「全回転域でフラットトルク」というが実際にはそうではなかったのだ。これに対してマツダでは吸排気口を周方向から側方に写して改善できたとしているが、その達成度の本当のところは分からない。