極右政党躍進の背景に、「西側による差別」への旧東ドイツ人の根深い怒り
「ドイツ統一から30年以上経った今も、旧東ドイツ人は旧西ドイツ人から軽蔑され、差別されている。旧東ドイツは、ドイツの全ての悪の根源とされている」。こう告発する一冊の本が昨年、東西ドイツ間の関係をめぐり大きな議論を巻き起こした。旧東ドイツで極右政党の人気が高い背景にも、この深い怒りがある。 *** ライプチヒ大学の言語学者ディルク・オシュマン氏は、2023年に出版した『西ドイツがでっち上げた東ドイツ(Der Osten: eine westdeutsche Erfindung)』の中で旧東ドイツ人に対する差別を糾弾した。同書は強い反響を呼び、去年5月に週刊誌「シュピーゲル」のベストセラーリストで、一時ノンフィクション部門の首位に立った。
「侮蔑と辱めの30年間」
オシュマン氏は、1967年に、東ドイツのゴータ(今日のテューリンゲン州)で生まれた。父親は金属加工企業で働く労働者だった。オシュマン氏は、社会主義時代には、米国のロック音楽やジーンズに憧れる多くの若者の一人だった。1986年から1992年までイエナ・フリードリヒ・シラー大学で英文学やドイツ文学を学んだ後、1992年から1年間にわたり米国バッファローのニューヨーク州立大学に留学した。 オシュマン氏は2011年に、ライプチヒ大学のドイツ文学研究所で、現代ドイツ文学課程の教授職を得た。 この書は、社会主義時代の東ドイツを経験した後、統一後のドイツの変化に深く失望した一市民の怒りと絶望、告発の記録である。ドイツに住む一市民である私には、心が寒くなるような本だ。オシュマン氏は、「統一以来我々旧東ドイツ人が経験してきたのは、旧西ドイツ人による個人的、集合的な侮蔑と辱めの30年間だった。ドイツのメディアは旧西ドイツ人によって完全に支配されており、旧東ドイツについては悪いことばかり報道するか、我々を笑いものにしている。旧東ドイツ人は過小評価されているばかりではなく、ドイツ社会から完全に締め出されている。旧東ドイツは、悪性腫瘍のように、ドイツの中の異常でみっともない悪の部分として烙印を押されている」と批判する。「旧東ドイツに派遣された役人たちは、植民地に送られてきたかのように振舞った」とまで書いている。 彼は西側による侮蔑の典型的な例として、シュピーゲル誌の2019年8月23日号の旧東ドイツ特集を挙げる。同誌は、「旧東ドイツ人とは、こんな人たち。偏見と現実。彼らはなぜこのように行動し、旧西ドイツ人とは違った投票行動を見せるのか」という標題のカバーストーリーを掲載した。オシュマン氏は、「この記事は、ドイツの人口の18%にあたる旧東ドイツ人に対する誹謗中傷であり、旧西ドイツ人の旧東ドイツ人に対する偏見を増幅するものだ」と厳しく批判した。彼によると、シュピーゲル誌は旧東ドイツ人について「弱虫で醜く、愚かで、怠惰で、能力がなく、悪趣味で、奇妙な振舞いをし、外国人を嫌い、国粋主義的でナチスの思想を信奉する人々」というイメージを与えている。彼は、「ドイツでの善悪の基準は全て旧西ドイツが決めており、それに照らすと旧東ドイツ人たちは問題児として見なされている」という。オシュマン氏によると、旧西ドイツ人の約17%は、旧東ドイツに行ったことが一度もない。ミュンヘンの私の知人の中にも、「仕事も含めて、旧東ドイツには絶対に行かない」という人がいる。 オシュマン氏の本は、ドイツで大きな論争を引き起こした。彼に送られてきたメールの内3分の2は、「よく言ってくれた」と賛意を示すものだった。だが旧西ドイツ人からは「言葉遣いが乱暴すぎる」とか、「我々は多額の金を注ぎ込んで、あなたたちのために色々やってあげたのに、このような本を出すとはけしからん」と批判するメールも送られてきた。