ナチュラリスティック・ガーデンを学ぶ、絶好の書『ピート・アウドルフの庭づくり』日本語版がついに刊行【翻訳者・永村裕子さんインタビュー】
翻訳に至った経緯と、ピートさんから影響を受けた点は?
著者のピートさん、ノエルさんともに数十年来の親交があります。2020年によみうりランド内HANA・BIYORIのガーデンをピートさんにデザインしていただきましたが、じつはそもそも、本著の原書に、私は日本の情報提供として関わっているんです。日本でもナチュラリスティックな植栽への注目度が徐々に上がってきましたが、一方で、いろんな解釈が聞こえるようになり、混迷してきたとも感じて、そろそろ基本をしっかり伝えるべきときが来たと思いました。 ピートさんの作品に関わりながら、ガーデンは試行錯誤や各所からの集合知に助けられながらつくり上げていく必要があることも再認識しました。今回、翻訳作業でもお世話になった、ナーセリーマンの鈴木学氏、同志の月ケ洞利彦氏にはいつも助言をいただいています。ピートさんがときどき口にする「植物が人と人をつなげる」というコンセプトも実感する場面が多く、人の輪の広がりに感謝しています。
日本でも応用できますか?
ガーデナーが主体となり、コツコツ積み上げて拡張するガーデンに、私は敬意をもっていますが、限定的な条件でつくられたガーデンなので、そうそう他人には模倣できません。対照的に、ピートさんのデザインは、フォーミュラ化して図面に落とし込んであり、本人不在でも技術者がいれば実施できます。また本著にあるデザインの法則や植物コミュニティの構成などを読み込んで、日本でも育つ植物に置き換えて挑戦することも可能だと思います。 そして、少なくとも3年はじっくり観察しながら、焦らずに植物を育てることです。その点では、家庭の庭はガーデナー本人の裁量ですから、気長に挑戦しやすいでしょう。
読者へのメッセージを。
ピートさんがこんなにも多くの図面を公開しながら、植物の組み合わせ方や選び方、一年の見どころを長続きさせる構成などの詳細を網羅した書籍は、とても勉強になります。それは、有名シェフがレシピを公開しながら、食材や調理方法を詳しく説明してくれているのと同様に贅沢なものです。 欧米での事例が多いので、温暖な日本での応用には注意が必要ですが、鈴木氏の助言と自身の経験をもとに一部訳注を加えてあります。ナチュラリスティック・ガーデンは現在進行形で進化し、本場では次世代のデザイナーも台頭してきています。本著が起点となって、日本でもこのような植栽が定着・発展し、そしてハイレベルの実践者が育ち、ふえることを願っています。
永村裕子(ながむら・ゆうこ) 景観デザイナー。英国でベス・チャトー氏に師事。ヨーロッパや中東の造園設計事務所に勤務。現在は熊本市を拠点に植栽デザインと管理を実践しながら、海外でのコンテスト植栽も請け負う。よみうりランド「HANA・BIYORI 」の「PIET OUDOLF GARDEN TOKYO」ヘッドガーデナー。 *本インタビューは『趣味の園芸』2024年11月号に収載された記事を加筆・再構成したものです。