無謀かロマンか。かつて村田諒太に勝った38歳の佐藤幸治がプロからのアマ復帰第1号として東京五輪目指す
引退していたプロボクシングの元OPBF東洋太平洋ミドル級王者の佐藤幸治(38)がアマチュアに復帰、明日29日から都内で行われる東京都ボクシング選手権大会に出場することが明らかになった。日本ボクシング連盟の山根明・元会長の退任を受けプロアマ解禁となったが、佐藤は、その適用を受けプロからアマ復帰した第1号となる。佐藤はアマ時代にロンドン五輪金メダリストで元WBA世界ミドル級王者の村田諒太(33、帝拳)に勝ったことのあるボクサーで、2012年に引退したが東京五輪出場を目指して7年ぶりの現役復帰を決めた。東京五輪に出場する国内代表選手の選考方法は、まだ正式決定していないが、11月の全日本選手権の優勝者が最有力候補となる方向。その全日本への出場切符を手にするため、明日、第1関門となる都の大会に出場する。38歳のオールドボクサーの異例の再挑戦に注目が集まる。
復帰きっかけは”山根騒動”
元プロのアマ復帰第1号である。 「無事アマ復帰を認められたので安心しました」 先月下旬に日本ボクシング連盟から、元プロのアマ転向、復帰に関するルールが正式発表されたが、佐藤は急いでアマ登録手続きをとった。 これまでの“ドン”山根元会長の体制では、元プロ選手のアマ復帰は許されていなかった。ミニマム級で4団体すべてのベルトを制覇した高山勝成が東京五輪を目指すためにアマ復帰を求めたが、門前払いが続いた。だが、数々のスキャンダルが表沙汰になって、山根元会長が退任、体制がガラっと変わり、プロアマの関係に雪解けムードが生まれ、両団体の協議の末、解禁が正式に決まった。佐藤は、一連の山根騒動が起きたときから「アマ復帰の可能性が出てくるはず」とプロから7年、アマから実に16年ぶりとなる復帰準備を始めたという。 「山根元会長の騒動から、出場年齢、そして東京五輪。すべて僕が復帰するためにあったんだと思うんです。運命を感じます」 ポジティブすぎるほどポジティブ。 佐藤は、名門日大出身で、卒業後は、自衛隊体育学校でボクシングを続け、全日本選手権のウェルター、ライトミドル、ミドルの3階級に跨って5連覇、アマ13冠の実績を持つ。一発に威力がありアマ時代は“無敵の怪物”と恐れられていた。2003年の全日本のミドル級決勝では、高校時代の村田諒太にRSC(プロで言うTKO)で勝っている。村田自身が「逃げ回ってコテンパンにやられた」と回顧する試合だ。 だが、佐藤本人は「僕は社会人で村田はまだ高校生。キャリアも含めて勝って当然だし、村田は体もできていなかった。高校生があそこまで来るだけで凄いこと。僕にも負けたら自衛隊をクビになるというプレッシャーもあった。その後、村田が五輪で金メダリストになり、世界王者になったからといって、そんな話を引っ張りだして、今更、村田に勝った話をするのはみっともない」と多くを語らない。 村田に勝った男も、シドニー、アテネと2度、五輪出場を目指したが出場できなかった。3度のチャンスがあったアテネ五輪アジア予選では、2度、準決勝へ進出した。あと1勝すれば五輪の出場権を手にするところまでいったが敗れた。特に最初の大会では、フィリピン人選手から2、3度ダウンを奪い、勝利を目の前にしながら、肘を当てられて目を切った。当時は、カットした方が負けになるというルール。五輪は遠かった。 アテネ五輪への挑戦を最後に「北京五輪はもう無理」とプロ転向するが、ずっとこの予選敗退がトラウマとなり夢に出てきたという。 「目を切って、ああ、またかよ、って、そんな夢です。でも清水聡が僕とは、逆のパターンで負けている試合で相手が目を切って五輪アジア予選で2位となり北京五輪に出ました。奴が敵討ちをしてくれたような気になって、夢を見ることはなくなったんですが、あの時五輪に出ていればの気持ちはずっと残っていました。ずいぶん、遠回りしましたが、やっとその気持ちを晴らすチャンスがきました」 佐藤が語る清水とは、ロンドン五輪のバンタム級で銅メダルを獲得、現在、プロ転向して大橋ジムに所属、OPBF東洋太平洋フェザー級王者となっている清水だ。