無謀かロマンか。かつて村田諒太に勝った38歳の佐藤幸治がプロからのアマ復帰第1号として東京五輪目指す
人生を懸けた挑戦の第一歩が目の前に迫っている。明日29、30日の両日に渡って行われる東京都選手権大会だ。東京五輪予選に出場する国内代表になるためには11月の全日本で優勝しなければならない。これまで佐藤は、日連推薦で全日本に出場してきたが、アマで16年ものブランクがあり、到底、もう推薦などはもらえず都大会から勝ち上がって出場権を得る必要がある。今大会にミドル級でエントリーしたのは、佐藤を含めて3人。トーナメントで実施され、29日の午前中に計量と抽選が行われ組み合わせが決まる。抽選次第では1試合で優勝となる。この大会を勝つと、9月に関東ブロック大会があり、そこを勝って、ようやく11月の全日本の出場権を得る。アマは、すべてトーナメントだからひとつ負けたら終わりだ。 「まだ緊張はないんですが、久しぶりの試合なのでリングに上がってからですよね。負けたら終わりなんで。でも、やれるという自信はあります。今回は、1試合でも2試合でもいい。9月になれば、もっと仕上がっていきますよ」 現在のミドル級のトップは、全日本2連覇中で昨年の大会ではMVPを獲得、9月の世界選手権代表に選ばれている森脇唯人(22、自衛隊体育学校)。スピードを武器にする選手で佐藤とは対照的なスタイル。ジムでニアミスはしたことがあるが、一度も手合わせをしたことがない。森脇は、推薦で全日本に出場してくるが、そこに辿り着けば超えていかねばならない最大のライバルである。 「スピードがあって距離感もいい。まあ僕は彼のお父さん世代なんでしょうが」 かつては怪物と呼ばれた男も7年ものブランクと年齢を考えると東京五輪出場は、奇跡に近い過酷な道のりである。 3歳になる長男の名前は「大吉」という。結婚してから初詣の神社で3年連続「大吉」をひいたことから名づけた。 「大吉が1歳の時に自分で引かせたら、また大吉。僕のラッキーを応援してくれているみたいでしょ。東京五輪で4歳。もうわかる歳。東京五輪でメダルを獲得している姿を見せたいんです」 夢を語れなくなった時代にピュアで一途なこんな生き様があっていい。オールドボクサーの奇跡の物語の始まりである。 (文責・本郷陽一/論スポ、スポーツタイムズ通信社)