ロシアが欧州へ「移民」「難民」を大量に送り込んでいる! 日本人記者が国境地点で見た「異様な光景」
「再び見つけたら射殺する」
だが、ビザも切れ、不法滞在になったところで欧州への密航を請け負う人物の連絡先を知った。指示に従って120米ドル(現在のレートで約1万8000円)を送金すると、23年5月、ベラルーシの首都ミンスクに連れて来られた。「小川を渡れば3~4日でドイツに行ける」という触れ込みだった。 十数人のグループで国境の森に入ったものの、すぐに遭難し、ベラルーシの国境当局に見つかって拘束された。そして国境フェンスのそばに連れて行かれ、当局者に掘削道具を渡され、こう告げられた。 「午前2時が過ぎたらフェンスの下を掘れ。ベラルーシの森で再び見つけたら射殺する。戻ってくるな。国境を越えろ」 地中に固いものが埋め込まれていて掘ることができなかった。雨の森で立ち往生している間に水も食料も尽きた。グループで話し合い、はしごをつくってフェンスを越えることになった。フェンスによじ登った瞬間、ヒラはポーランド側に転落し、背中から落ちて意識を失った。マリアンナの仲間に救助されて約2カ月間入院した。 背中や足に金属板を埋め込む手術を3回受けたが、今も腰回りの感覚はないという。
国境を守る「竜の歯」
モスクワからベラルーシを経てポーランドへ――こうした移民・難民の大量密入国が意味するものは何なのか。 もちろんロシアもベラルーシも認めることはないが、その意図は「移民兵器」という言葉に集約される。世界中の移民・難民たちを集め、EUに向けて一斉に送り込むことで混乱を引き起こす。「人権尊重」を掲げてきたEUの価値観までもが揺さぶられることとなる。サイバー攻撃や情報戦などと同様、通常の軍事力と組み合わせて実施される「ハイブリッド攻撃」と呼ばれるものの一つである。 バルト3国の一つ、エストニア東部の街ナルバは、川を挟んでロシアのイヴァンゴロドと向き合う。川幅百数十メートルのナルバ川には4車線の橋が架けられている。高台から望遠レンズで橋を見ると、スーツケースを引いて往来する人たちが列をなしていた。だが、車が行き来している気配はない。 橋の中央部に一辺が1メートルほどのピラミッド型の小さなコンクリート製ブロックが約20個設置されていた。それは戦車の侵入を阻む「竜の歯」と呼ばれる軍事用障害物で、鉄条網も巻かれている。 「ピラミッドを置いたのは、われわれがロシアの行動をいかに深刻に受け止めているか見せつけるためです」 橋の上で取材に応じたエストニア国境警備隊東部管区長エリック・プルゲル(34)は強い口調で、「移民攻撃」と呼ぶ事態について説明を始めた。