なぜ今さら長射程ミサイル解禁なのか、ウクライナ戦争をめぐるバイデン最後の賭け
<ウクライナに米国製兵器でロシア領内を攻撃することを許可したバイデン政権に対して、戦争をエスカレートさせるのかとトランプ支持派がX上で猛烈な批判を展開している>
ロシアとウクライナの戦争が長引くなか、ジョー・バイデン米大統領は11月17日、ウクライナに対し、米国製の長射程ミサイル「ATACMS(陸軍戦術ミサイルシステム)」を使用してロシア領内深くを攻撃することを承認したと報じられた。これに対して、ドナルド・トランプ次期大統領の支持者らがソーシャルメディア上で反発している。 【動画】集合したロシア部隊の頭上に降り注ぐ「クラスター弾」の強烈な爆撃...ATACMSの直撃を受けた瞬間映像を公開 ロイター通信は、バイデン政権の今回の決定に詳しい3人の情報筋の話として、バイデンはウクライナに対し、アメリカが提供する兵器をロシア領内の攻撃に使用することを許可する予定であり、国境深くへの最初の攻撃は数日中に行われる可能性が高いと報じた。使用されるのは、最大射程300キロのATACMSミサイルになる模様だという。 ウクライナは何カ月も前からロシア領内への長距離攻撃の許可を求めてきたが、バイデンは戦争の拡大を恐れてこれを許可しなかった。だが、ロシアが北朝鮮兵をウクライナ戦線に派遣するという決定を下したことで、政権の考えは一変した。 プーチンは9月12日、西側の長距離ミサイルをロシアに使用することを可能にする決定は、NATOがロシアとの戦争に直接参戦するものとみなされ、「戦争の本質」を大きく変えるだろうと述べて牽制した。 残りの任期は2カ月なのに バイデン政権の決定はすぐに反発を招き、トランプ支持者の一部がX(旧ツイッター)で、戦争の早期終結という公約のトランプに対し、任期残り2カ月のバイデンがウクライナ戦争をエスカレートさせるようとしていると非難した。 ジョージア州選出の共和党議員のマージョリー・テイラー・グリーン下院議員は、バイデンをこう非難した。「アメリカ国民は11月5日の大統領選投票日に、外国の戦争に資金を提供したり戦ったりすることを望まないという考えを明らかにした。われわれは自分たちの問題を解決したいのだ。もうたくさんだ。こんなことはやめなければならない」 ベンチャーキャピタリストで政治経済の話題を配信するオールイン・ポッドキャストの共同ホストを務めるデービッド・サックスもXに投稿し、「トランプはウクライナでの戦争を終わらせる権限を勝ち取った。では、バイデンは任期最後の2カ月で何をしようというのか? 大規模な戦争拡大だ。彼の目的はトランプに最悪の状況をもたらすことだ」 ユタ州選出のマイク・リー上院議員(共和党)がXに投稿した「リベラルは戦争が大好き」「戦争は大きな政府を促進する」というコメントに対しては、実業家でトランプ政権に入る予定のイーロン・マスクが「これは真実だ」と返信した。 第三次世界大戦に発展? バイデンの決断についてトランプはまだ声明を出していないが、長男のドナルド・トランプ・ジュニアはXにこう書いている。「軍産複合体は、父が平和を創造し命を救うチャンスを得る前に、確実に第3次世界大戦を起こしたいようだ。何兆ドルもの資金を確保しなければならない。無駄に命が失われる! 愚か者め!」 保守系学生団体ターニングポイントUSAの創設者チャーリー・カークは、Xでこう主張した。「バイデンは第三次世界大戦を起こそうとしている。病的だし、完全に頭がおかしい。アメリカの兵器をロシアの内陸に撃ち込んだりするべきではない!ロシアがアメリカにミサイルを撃ち込むためにミサイルを供与するようなものだ」 一方、トランプは以前、自分が大統領だったウクライナ戦争は「24時間以内に」終わらせると言った。 しかし、戦争の解決を急げばロシアに占領されたウクライナの領土を奪われたままになるなどウラジーミル・プーチン大統領に有利になる、とトランプの方針を批判する声もある。 これに対してバイデン政権は、政権末期の数カ月間、ウクライナに対する米軍の支援をできるだけ急ぎ、強化し続けることを約束したと、アントニー・ブリンケン米国務長官は13日に確認した。 クルスクの攻防を最後に支援か ロシア軍は最近、ミサイルとドローンでウクライナの首都キエフを73日ぶりに攻撃した。 ブリンケンは、ブリュッセルのNATO本部で、同盟国の特使やウクライナ政府高官との会合に先立ち、記者団に語った。「われわれは、ウクライナがロシアの侵略から効果的に自国を防衛できるよう、ウクライナのために行っているすべてのことを強化し続ける」 さらにこの方針は、北朝鮮が最近、約1万人の精鋭部隊をロシアのクルスク州に派遣したことを踏まえて決定された。ウクライナは今年の夏、国境を越えて予想外の大攻勢をかけ、ロシアとの交渉材料にするためクルスクの一部を占領したが、ロシアは手薄だったクルスク奪還部隊を北朝鮮兵で補強してきたのだ。 バイデン政権は、前線に投入される北朝鮮軍の部隊が今後さらに増え、ロシア軍部隊が優位に立つことを恐れている。米国務省のベダント・パテル報道官は先日、記者団に対し、ワシントンはクルスクの動向について「非常に懸念している」と述べた。
ナタリー・ベネガス