「電王戦」「電王トーナメント」が将棋界にもたらしたもの
成果披露の場が増え開発スピードが上がった
コンピュータに詳しい元「週刊将棋」編集長の古作登氏(大阪商業大学アミューズメント産業研究所主任研究員)は「電王トーナメント」について「それまで年に1回だったソフトの大会が、同トーナメントが追加されたことで半年に1回、成果を披露する場が増え、開発の進化スピードが上がった。ドワンゴがエンターテインメントとして電王戦の見せ方を工夫し、将棋界を盛り上げた。参加ソフトのすそ野も広げた」と評価します。 将棋ソフトが人間を追い越した時期について、古作氏は「2013年に三浦弘行八段(当時、現九段)がソフト・GPS将棋に敗れたところが分岐点」と見ます。「ポナンザ」の開発者も2015年ごろにはすでに超えていると感じていたと発言しています。そういう意味で「電王戦」「電王トーナメント」は将棋ソフトの人間超えをリアルタイムで見せていたともいえます。 古作氏は「将棋の勉強のためには、ソフトをいかに活用するかの時代。ソフトを使えば確実に学習効率は上がる。特に時間の少ないアマチュアにとっては大きなツールだ。昔は年齢を重ねると強くなれないといわれたが、私は50代だがソフトの活用によって、まだ棋力向上ができる余地を実感している」と話します。
人間の将棋は「間違うから面白い」
ソフトが強くなり過ぎてしまったことで、世の中の将棋自体への関心が薄れているのかといえば、そうではありません。プロ棋士の対局のインターネット中継は当たり前となり、昨年公式戦29連勝を達成した藤井聡太七段の活躍もいまだに注目されています。ネット中継では将棋ソフトの評価を見て形勢を判断することもしばしばで、初心者でも分かりやすく見られることから、「観る将棋ファン」の拡大につながっているともいわれます。さらに古作氏は「人間は間違うから面白いのであり、逆転があるから味がある」として、人間どうしの対局の面白さは変わらないと指摘します。 AIが実社会の人間の仕事に取って代わられるといわれる時代。「グーグルの参入などで分かるように将棋や囲碁のソフト開発者は優秀と評価されている。今後の応用として、病気の診断などに広がりを持っていくことは当然考えられる。開発者たちが今後どういう方向に進んでいくのか注目したい」(古作氏)。