「世界から見た日本市場の魅力は低下している」調達・購買コンサルタントが適正な値上げを“肯定”する理由
原材料費に合わせて価格を変える――納得いく値上げの仕組みをつくるべき
――坂口さんは、各企業がどのように値上げしていけばいいと考えていますか。 坂口孝則: 例えば、アメリカでは原材料費が上がったら、市況の上昇割合に合わせて自動的に価格を上げるシステムがあります。日本でも、原材料費が上がったときに「原材料費が何パーセント上がったから、価格を上げていく」というような適切な値上げを企業間取引で迅速に行っていくべきではないかと考えています。原材料費が上がるのは製品を作っている企業の責任ではないですし、そのようなシステムがあれば消費者側の納得感も高まると思います。また、社内決裁に時間がかかる日本企業では、海外から輸入する半導体や木材などが急激に価格上昇していくスピードについていけず、値上がった価格で購入の承認がおりた時にはすでに他の国に買い占められていて、買えなかったということが実際に起きています。そうしたことで国際競争力が落ちていってしまうのですが、自動で値上げするシステムがあると、そのような問題も解消します。 原価ではなく価値をベースに値づけしている製品やサービスについては、その価値を認められなかったら、お客さんからお金を出してもらえません。それで買ってもらえないのなら、価格に見合う商品価値がなかったんだと判断するしかないです。価格を上げて、上げた分の価値を提供できるように試行錯誤をするのは、逆に清々しいことではないかと思うんです。
「日本国内が潤う循環を作れるといい」値上げと共に賃金アップの動きを進めるために
――一方、給料は上がらない状況が続いていますが、この点についてどのように考えていますか。 坂口孝則: 物価が上昇していた1950年頃、つまり高度成長期のときは、同時に給与も上がっていたんです。それがセットだったから、生活用品が値上がりしても、消費者は受け入れられたんですよね。しかし、この30年、その構図が崩れています。 ただ最近は、ファーストリテイリングなど大企業を中心に賃上げを表明する企業が出てきています。そして、その企業の調達や購買部門の方々は、下請けの中小企業が行う値上げ提案について、柔軟に受け入れている状況です。そういう意味では今は、もしかしたら全体の賃金が上がる直前ぐらいにあるのかもしれません。 今、日本では外国企業の商品やサービスが多く人気ですが、本当はなるべく日本企業や地域にお金が落ちる状況が作れるようになるといいですよね。日本企業の商品やサービスを利用すればするほど、回り回って日本人の給料が上がっていくことにつながるはずですから。 ----- 坂口孝則 調達・購買コンサルタント。大阪大学卒業後、電機メーカー、自動車メーカーで調達・購買業務に従事した後に独立。未来調達研究所株式会社に所属するかたわら、ラジオ・テレビのコメンテーターや執筆活動など幅広く活躍。 文:田中いつき (この動画記事は、TBSラジオ「荻上チキ・Session」とYahoo! JAPANが共同で制作しました)