埼玉の医師がスタートアップを起業 異色のキャリアに導いた「自分はできる」という思い込み
いま、内視鏡検査(胃カメラ)中にAIによって医師の診断を支援する「内視鏡AI」が注目されています。開発したのは、現役の内視鏡医であり、株式会社AIメディカルサービスCEOの多田智裕氏。埼玉の開業医がなぜ世界から注目される内視鏡AIを開発することができたのでしょうか? 多田氏を成功に導いた"自己効力感"とは? ※本稿は、多田智裕著『東大病院をやめて埼玉で開業医になった僕が世界をめざしてAIスタートアップを立ち上げた話』(東洋経済新報社)より、内容を一部抜粋・編集したものです。
「思いの強さ」が武器になる
「内視鏡AIに着目するなんて、さすがですね」 「多田は『持ってる』ね」 そう言われることがあります。しかし、私はその評価をすんなりと自分自身で受け入れることはできません。 画像認識が得意なAIに、画像診断である内視鏡検査を組み合わせようという発想は、誰でも思いつくことです。内視鏡を扱う医師であれば、"秒"で思いつくでしょう。実際、「オレも同じようなことなら多田より先に思いついていたよ」と、何度も言われました。私がAIメディカルサービスを設立した2017年頃に内視鏡AIの研究開発を始めた人を何人も知っています。 私がもしもほかの方より少しだけ優れたところがあるとするなら、それは事業の芽を見つけることだとか、発想能力に長けていたとかではありません。思いついたアイデアを、自分がやり切ると覚悟を決めて、できうるかぎりの時間を投じて、やるべきことを調べ上げ、しっかりやり切ってきたことだと思っています。 ちゃんと毎日、着実にやるべきことをやる。結果を出し、次につなげる。それを継続してきたからこそ、大きな次の可能性をつかむことができたし、第1弾AI製品の発売にもたどり着くことができました。 やり切るためにかける「思いの強さ」だった、とも言えるかもしれません。事業を思いついていた人は、なぜやらなかったのか。それは、それだけの時間と労力を注ぎ込む思いがなかったからでしょう。もし本気の思いがあるのであれば、やってみたはずなのです。 でも、やらなかった。私は、やりたいと思って実際資金提供や協力をしてくれる方々を募り、さらにはやり通したのです。そして今、自分の中では、AIメディカルサービスが内視鏡AIの分野において世界ナンバーワンのグローバルトップ企業になるイメージしかありません。