「ギリギリ真実を書けるのはもう漫画しかない」…「児童養護施設」のリアルを描いた漫画が訴えること
押川氏は、当たり障りのない優しい言葉を使わない。綺麗事も言わない。だからこそ、その言葉に反感を抱いたり、場合によっては不快に感じたりする人すらいるかもしれない。しかし、多くの人が目を逸らしたい、見なかったことにしたいものに、問題の本質が潜んでいる気もする。押川氏は言う。 「我々はこうして約束の時間に来たり、締め切りを守ったり、法律やルールを守ったりする。それはある種の強迫観念を親から植え付けられてきたからじゃないですか。原点で親にしつけられ、ある種、枠にはめられてきたってことです。でもそれによって、社会適応できていることも事実です。 ところが今は、家庭からも学校教育からも『しつけ』を取り上げています。例えば、スクールカウンセラーの配置は、本来は子どもの心理的なサポートが目的でした。しかし子どもの話を聴くばかりで具体的な助言がなく、不登校に対する効果が上がっていないという報道もありました。もちろん背景には、不登校やひきこもりも個性とする多様化した社会があります。 ただ、メンタルヘルスの問題に自主性や自己責任の考えを取り入れることで、結果的には放置につながり、悪化する事例をたくさん見てきました」 また、マスメディアの責任についてもこうした問いを投げかける。 「子どもの問題については、心理職の方がコメントすることが多いですが、決まって言うのは、『親や本人の意思を尊重する』という綺麗な言葉。それで、そのまま追い払ってしまう。 本人が精神疾患と認めなければ、介入しない。子どもが虐待だと認めなければ、介入しない。どちらも同じですね。専門家が信用ならないのは、彼らに都合のよいルールによって、その問題が『なかった』ことにされてしまうこと。 しかし、特にマスメディアなどは、私みたいに本当のことを言うより、綺麗事を言う人のほうが好きですから。 ギリギリ真実を書けるのはもう漫画しかないと思い、漫画にしました。まずは真実を知ることと、実態を伝えていくこと。それが、私が漫画に込めた思いです」 押川剛 1968年生まれ。福岡県北九州市出身。ジャーナリスト・ノンフィクション作家・株式会社トキワ精神保健事務所所長。専修大学中退、北九州市立大学卒。1996年、“説得”による「精神障害者移送サービス」を日本で初めて創始。移送後の自立・就労支援にも携わる。その活動は国内外から注目を浴び、ドキュメンタリーが多数放映される。著書に『子供部屋に入れない親たち』『「子供を殺してください」という親たち』『子供の死を祈る親たち』など。 取材・文:田幸和歌子
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