「ギリギリ真実を書けるのはもう漫画しかない」…「児童養護施設」のリアルを描いた漫画が訴えること
「専門家も、現場の話、虐待の実態や、それに伴う数値は絶対に出せないと言います」
これは児童相談所も、学校の先生も同じ。なぜなら、子どもに関して親が保護者という位置付けになるため、親を不快にさせるコミュニケーションはあえてしないのだという。 「漫画の監修をしてくれている専門家も、すでに発表されている文献の話はいいけど、授業で教えているような現場の話、虐待の実態や数値は地域格差もあるし、絶対に出せないと言います。『押川さんが責任とるんだったら情報の提供はするけど、自分の名前は一切、出さないで』という言い方です。 実際に虐待が行われている現場を直接見ているのは児相の職員や警察官ですが、彼らには守秘義務があります。ましてや、それ以外の人間が現場のことを語ったとなれば、例えば写真や記録を誰からもらったのかという追及のほうが、この国は厳しいですから。 それでいて国は今、虐待を受けた子どもの対応ですら、『地域共生社会』の名の下、小規模グループホームや里親制度を推進して、地域に委ねようとしています。これも精神障害者の地域移行のときと同じ流れで、一般市民、地域住民には何も知らされないまま話が進んでいる感じです」 少々厳しい言い方に聞こえるが、これは押川氏自身が取材で痛感したことだという。 「例えば、児童養護施設がある場所を知っていますか。 そもそも国の福祉政策が足りていないため、首都圏は子どもの数に対して施設の数が圧倒的に少ないのが現状です。首都圏では施設も街中にありますが、地方へ行くほど、山の中にある精神科病院と同じような立地条件にあるんですよ。 子どもの入所施設の選定も、その子の抱えた家族の問題・背景の重さ・困難事案等、難度によって振り分けされます。 児相に取材をしたときは、振り分け方については特に決まりはないと言っていましたが、実態は施設ごとにランク付けされています。例えば施設に入所する児童には、社会を震撼させるような事件を犯した親の子もいます。 そのような、地域住民やマスメディアの対応も必要な児童の場合、どの施設でも受け入れられるかというと、そうではない。だいたい街中にある施設では、近隣住民の目も厳しいため、難しいケースは預かれないですよね。 介護ほど話題になりませんが、児童養護施設では人手不足も深刻です。子どもの命にかかわる大変な仕事なのに、賃金は安いし、夜勤もある。大学の先生も児童養護施設への就職は勧めないし、実際、希望の仕事に全部落ちて仕方なく児童養護施設に入ったという人もいます。 医者だって対応困難な患者は診たくないのと同じで、厄介な問題を抱えた子どもには関わりたくない。だから、働き手がいないんです。また、先日も北九州市内の児童養護施設の職員が、女子児童への性的姿態撮影処罰法違反で逮捕されましたが、子どもにわいせつ行為をするなど問題のある人物もまぎれ込んできます」