長崎平和祈念式典のイスラエル不招待問題――露呈した日本と欧米の認識ギャップ
ガザ攻撃に無言の抗議
さて長崎市は、この日の式典で世界中にもう一つのメッセージを送った。長崎市は、駐日イスラエル大使を式典に招待しなかった。イスラエル軍はガザ地区での攻撃を続け、市民に多数の死傷者を出している。鈴木市長は記者会見などでイスラエルを名指しで非難しなかった。だが長崎市のイスラエル不招待が、ガザでの無差別攻撃に対する抗議であることは想像に難くない。 長崎市の決定は、欧米諸国に不快感を与えた。長崎市が駐日イスラエル大使を招待しなかったことに「抗議」して、米国、ドイツなど6カ国と欧州連合(EU)は、大使を式典に参加させなかった。鈴木市長は、「イスラエルを招待しなかったのは、政治的な理由ではない。平穏かつ厳粛な雰囲気のもとで円滑に式典を実施したいから」と釈明した。これに対し米国のラーム・エマニュエル駐日大使は、「長崎市は今回の式典を政治的に使った」と反駁した。日本では長崎市のイスラエル不招待に賛同し、欧米諸国の反応に憤慨している人が少なくない。
イスラエル除外は常に政治的意味合いを持つ
欧米では、イスラエルを式典の参加者リストから除外することが、「非政治的な措置」であるという言い訳は通用しない。欧米では、イスラエルの招待・不招待は、常に政治的な意味合いを持つ。ガザの状況を見れば、長崎市がイスラエルに抗議のメッセージを送ろうとしたことは、理解できる。 ガザの保健省によると、去年10月7日から今年8月15日までに、イスラエル軍のガザに対する攻撃で死亡したパレスチナ人の数は約4万人、負傷者は9万2294人にのぼる。イスラエル軍はハマス幹部の殺害の名目で、学校、難民キャンプ、病院なども爆撃している。7月13日には、ハマス軍事部門の指揮官だったモハンマド・アル・デイフを殺害するためにイスラエル軍の戦闘機が、多くの難民が避難していた地域を爆撃し、市民ら90人が死亡し、300人が重軽傷を負った。イスラエル軍は8月10日にもガザ市で多くの市民が避難していた学校を爆撃し、100人を超える犠牲者が出た。死傷者の多くが女性、子どもである。ネット上には、学校の周辺に並べられた、激しく損傷した遺体の映像が流れている。 非戦闘員が瓦礫の中で頭を割られ、手足をもぎ取られて次々に死んでいく現状には、広島や長崎の惨状と重なり合う部分がある。鈴木市長は、「この状況を放置してはならない。イスラエル寄りの欧米の態度に異議を申し立てなくてはならない」と考えたのだろう。