長崎平和祈念式典のイスラエル不招待問題――露呈した日本と欧米の認識ギャップ
イスラエル不招待、米国招待のダブルスタンダード
私は、長崎市が駐日イスラエル大使をボイコットするならば、なぜ同国に多額の軍事援助を与えている米国の大使もボイコットしなかったのか、と不思議に思っている。米国の外交問題評議会の今年5月31日の発表によると、1948年のイスラエル建国以来、米国は同国に合計3100億ドル(46兆5000億円・1ドル=150円)の軍事・経済援助を与えてきた。その内74.2%が軍事援助だ。 2023年10月にイスラエル軍のガザ攻撃が始まってからも、米国はイスラエルに兵器や弾薬などを含む125億ドル(1兆8750億円)の軍事援助を行った。イスラエルが約10カ月にわたる戦争を続けられるのは、米国の強力な援助のためである。世界の国の中で、米国がこれほど多額の軍事援助を与えている国は、イスラエルだけだ。 今イスラエルのガザ攻撃にストップをかけられる可能性がある国は、米国以外にない。米国がイスラエルに対する軍事・経済援助を一切停止したら、イスラエルは長期間にわたる戦争を継続できない。だが米国政府がイスラエルを見捨てる可能性は極めて低い。米国にとって、中東に位置し、イランなどに関する情報を収集しているイスラエルは、戦略的に重要な拠点である。民主党のカマラ・ハリス次期大統領候補も、「イスラエルは市民の死傷者を抑えるべきだ」としながらも、「イスラエルはハマスのテロリストと戦う権利がある」と語っている。親イスラエル派であるトランプが大統領に再選された場合、米国はイスラエルに対する軍事支援額をさらに増やす可能性が強い。 そう考えると、長崎市はガザ戦争での大量殺戮に抗議するためには、イスラエルだけではなく、米国大使も式典に招くべきではなかったのではないか。日本は、政治、経済、防衛で米国に大きく依存している。その重要性はイスラエルとは比較できない。米国大使をボイコットすると、政治的な反動が大きくなることを恐れて、米国大使を招待客のリストから削除しなかったのだろうか。イスラエルは米国ほどの影響力がないから、ボイコットする。米国を怒らせては大変だから、式典に招く。ダブルスタンダードと批判されても仕方がない。