鮭を盗み、イクラ持ち去り…迷惑行為で釣り場が次々閉鎖 その中で続く「奇跡」の場所には、住民の工夫があった
腹を割き、イクラにする筋子だけを持ち帰り、鮭(サケ)の身を捨てる人。他人が釣った鮭を盗む人。肩がぶつかるほどの距離に無言で割り込んでくる人―。その釣り場には、殺伐とした雰囲気が漂っていた。 【写真】銀座で魚釣り 屋内釣り堀ブーム 65年
河口以外の川で鮭を捕るのは違法だが、そこでは夜明け前、遡上する鮭の頭を上から棒で叩き、持ち帰る密漁者までいた。 昨年10月上旬、北海道のオホーツク地方で1週間、記者は車中泊しながら滞在し、釣りに没頭する休暇を楽しんだ。鮭の個体数の多さから北海道の釣り師たちの間で「鮭釣りの聖地」とも呼ばれる北海道枝幸(えさし)町では、トラブルが続出する荒れた釣り場がある一方で、住民と釣り人の自治で管理され、心地よく楽しむことができた場所もあった。(共同通信=小島鷹之) ▽有志で管理 午前3時、北海道の北端に近い枝幸町のフーレップ川河口。大阪からフェリーと一般道などで丸一日かけて到着した後、車中泊していたが、寒さで目覚めた。胴付き長靴にライフジャケットで身を固め、海岸に向かう。 真っ暗な河口の砂利道でヘッドライトの明かりを頼りに、膝下までの浅い川をのぞくと、約70センチの鮭(サケ)が数匹、川底に身をこすりながら懸命に遡上しているのが見えた。
既に30人ほどの釣り人が立っていたが、誰もさおを振らず、談笑しながら午前4時まで待っていた。それがここのルールだ。 近年、道内各地で密漁やごみの不法投棄など一部の釣り人の迷惑行為が原因で、釣り場が続々と閉鎖されている。この状況を変えるべく、釣り人と地元住民が「フーレップ川河口有志会」を組織し、管理しているのがこのポイントだ。釣り場閉鎖は全国でも起きているが、自治で維持するのはあまり聞いたことがない。休暇で1週間滞在した記者が、背景を探った。 ▽魚信なくも心地よく 「どうぞ」。午前4時にかけ声が響いてから、延々と5時間さおを振った。仕掛けは「ウキルアー」と呼ばれる北海道独自の仕様で、金属製ルアー「スプーン」の針に、魚の切り身など餌をかけ、ルアーの数十センチ上に浮きを付け、鮭がいる一定の水深を引いて誘う。 北海道では、規制のない河口より下の海でのみ鮭を釣ることができる。水産資源保護法で川や湖など内水面での鮭釣りは全国で禁止され、北海道漁業調整規則で海の禁漁に関する区域や時期が定められている。