新居に引っ越すまでは自宅にいたい…しかし刻一刻と容体は悪化して…【老親・家族 在宅での看取り方】
【老親・家族 在宅での看取り方】#125 私たちが訪問する患者さんのご家族の中には、熟考し覚悟を決めて自宅療養を始めたものの、本当に自宅でよかったのか、それとも病院や他の施設の方が患者さんの苦痛を取り除けるのではないかなど、改めて悩まれる方が少なくありません。 大きな病院から捨てられた…そんな思いを抱く患者もいる 「そんな時も遠慮せずどうぞ私たちに言ってください」と伝えており、ご家族から「どこで患者さんの死を迎えるのが最善なのか」など、ご相談を受けることがあります。 私たちとしては、まずはご自宅で最期まで過ごすことをお勧めするのですが、同時にご家族や患者さんが不安や後悔のないように過ごすために、他にもさまざまな選択肢があることを説明するようにしています。 時には話し合いの末、病院やホスピスに切り替える方もいます。 肺がん末期の66歳の男性は、同年代のパートナーの女性と同居されていました。 初めのころは通院していたものの、いつしか衰え少し話すだけでも呼吸困難となり始め通院が厳しくなってきました。 ですが同居するパートナーの女性には積極的に介護をする様子がなく、都内に住む娘さんが窓口となり、診療や介護保険などの調整をしていました。 当初はホスピスや一般病院の緩和ケア病棟も視野に入れていたようです。しかしずっと入居したかったマンションの抽選に最近当たり、せめてそこに引っ越して部屋を自分の目で見るまでは自宅にいたいとのことで、在宅医療を開始されたのでした。 「拝見しますね。今一番つらいのはなんですか?」(私) 「喉だね」(患者) 「痰が多いんです。マンションの入居日が12月16日でそれまでは入院したくないってことだったんですが、相談したら外泊できるとのことだったので、早く入院する方がいいのではないかとも思っています」(娘) 「わかりました。それに関してはご本人とご家族次第です。この生活環境が大変であればお手紙(入院を考えている病院の意見書)を見る限りすぐ入院させてくれそうなので、その時は入院してもいいと思います」(私) 「おうちにいたい? つらくない?」(娘) 「(病院に)引っ越しましょう」(患者) 容体が刻一刻と悪化する中で、いつしか新居マンションを見るまではといった思いも消え……。それから数日後に入院することになったのですが、入院する朝、介護タクシーを利用し病院へ着いたのち、その日のうちにご逝去されたそうです。 「夕方の4時49分に亡くなりました。ここまで本当によくがんばったって言われ、寂しいですが、後悔はないです。関わってくださった皆さまに感謝をお伝えしたいです」 そう娘さんからお電話をいただきました。 さまざまな選択肢がある中から、本当に患者さんやご家族にとって、一番納得でき、後悔なく過ごしてもらうためにはどうしたらよいのか? 正解のない答えを在宅医療の現場で、探りながら考え学ぶ日々なのです。 (下山祐人/あけぼの診療所院長)