イギリスから送られてきた謎の小包と「アップルコンピュータ」との出会い[第1部 - 第4話]
イギリスから送られてきた謎の小包
佐藤:そんなある日、1つの事件が起こりました。国際部の三菱自動車工業のチームでは、企業文化を表現するビジュアルデザインをイギリスのデザイン会社に発注していました。マーケティング用語で「CI」(Corporate Identity)と呼ばれるものです。そのイギリスの会社から、弁当箱サイズの小包が送られてきました。
関係者は全員「なんだこれは?」といった様子で戸惑っていました。そこで、社内のコンピューターに詳しい人に尋ねてみると、「きっと中に『リムーバブルハードディスク』が入っていて、データが保存されているのだろう」とのことでした。さっそくMacにつなげてみると、中には「Illustrator」と「Photoshop」のファイルがありました。ショールームの写真の上に、コーポレート・サインがカッコよくレイアウトされていて、社内のメンバーは一様に衝撃を受けました。
当時、日本ではデータでデザインを納品するという習慣がさほどありませんでした。僕もこの時初めて見ましたが、これはおもしろいし便利だし、今後広まっていくだろうと思いました。この出来事をきっかけに、Macにさらに興味を持つようになりました。 杓谷:当時としては新鮮で、衝撃的な体験だったでしょうね。「リムーバブルハードディスク」は英語の「Removable Hard Disc」のことで、取り外しできる外付けのハードディスクを指します。USBメモリやSDカードなどでファイルを共有することは現代でもありますが、ハードディスクでデータを共有するというのはこの時代ならではかもしれません。
佐藤:またこの頃、MO(Magneto-Optical Disk)という記録可能なCDのようなメディアも普及してきました。SCSI(スカジー)接続でMOドライブをつなぎ、MOディスクを挿入してデータの読み書きを行うといったものでした。
「山海塾」の欧州ツアーをきっかけに氏家啓雄さんと出会う
佐藤:同じ頃、「山海塾(さんかいじゅく)」という舞踏団から、「欧州ツアーをサポートしてくれないか」という依頼が三菱自動車工業に寄せられました。この時点で、私を含め誰も山海塾のことを知りませんでしたが、たまたまカルチャーに造詣の深い方が三菱自動車工業の社内にいらっしゃったので、快くサポートしていただくことになりました。