イーロン・マスクが「トランプ応援」に執着するワケ…「当選の見返り」のとんでもない内容
彼こそが「オクトーバー・サプライズ」
マスクは、生粋のMAGAリパブリカンというわけではない。ついこの間まで、トランプ支持ではなかった。当初マスクは、トランプではなく、フロリダ州知事のロン・デサンティスを共和党の大統領候補として支持していた。デサンティスの立候補表明が、マスクがホストするXのストリーミングでなされたことを記憶している人もいるかもしれない。さらに遡れば、4年前の2020年大統領選では、民主党のジョー・バイデンを支持していた。2016年大統領選でトランプの支持を表明したピーター・ティールと違って、マスクは、彼の経営スタイル通り、状況に応じながらも衝動的に支持対象を変えてきた。その意味では、トランプの暗殺未遂事件は、マスクの感情を強く刺激するだけの効果があったのだろう。子どものようにいまだにSF的なヒロイズムに惹かれるマスクらしい衝動といえる。もちろん、全く打算がないはずもなく、そこはテック界隈の住人らしく、特定のイデオロギーではなく、利得の計算、すなわち損得勘定をベースに判断してもいる。功利主義的なエンジニアらしい発想だ。 そのマスクが、表舞台に出て政治活動、いや、政治パフォーマンスに勤しむ。SpaceXやTeslaの経営に取り組むのと同じ熱量で、トランプのキャンペーンに加わった。 マスクのトランプ支援が本格したのが10月だったため、金に糸目をつけずにトランプの勝利のために動く彼の姿を見て、マスクこそが今年の大統領選の「オクトーバー・サプライズ」だ!と評する声も出てきた。「オクトーバー・サプライズ」とは、その名の通り「10月の驚愕」。大統領選の投票日がある11月の直前月である10月に起こる、選挙戦の流れを一気に変えるような大事件のことを指す。過去には、ハリケーンの襲来などが大きく取り上げられた。それが今年はイーロン・マスクだ、ということだ。 マスクは、トランプが7月に銃撃されたペンシルヴァニア州バトラーで再びラリーを開催した10月5日、会場に現れ、トランプとのツーショットを決めた。子どもがはしゃぐようにジャンプして腹を見せるマスクの姿は瞬く間に拡散した。その日以来、マスクは、持ち前の執拗さで、ペンシルヴァニアを始めとする激戦州7州での「投票促進活動」に加わるようになった。 ここでもマスクの行うことは物議を醸した。America PACを通じて、100万ドルの小切手が当たるキャンペーンを始めたからだ。具体的には、「言論の自由と武器を持つ権利を支持する請願書」なるものを用意し、この請願書に署名した中から無作為に選ばれた人に、投票日である11月5日まで毎日100万ドルを配るというものだ。ただし、署名者は、激戦州7州で選挙登録した有権者に限られる。 ひとつ補足しておくと、スーパーPAC(super political action committee:特別政治活動委員会)とは、アメリカの政治資金管理団体であるPAC(政治活動委員会)の一つ。2012年のシチズン・ユナイテッド訴訟で認められた新種のPACで、それまでのPACと違い、特定の候補者への支援ではなく、ある政治信条の主張に限定することで、候補者支援にはあった献金額の上限を外したものだ。先のマスクのAmerica PACなら憲法修正第1条と第2条の絶対擁護が、このスーパーPACが推す政治信条となる。もともとスーパーPACは、特定の候補者に限られない「政策」の主張のためにつくられたが、付随的にその政策に反対する候補者に対する批判も認められた。そのためスーパーPACは、事実上、ある政治家や候補者に対するネガティブキャンペーンを展開する母体となっている。