“人の悲しみを癒す” 異例のロングラン映画「骨なし灯籠」監督の故郷・名古屋で凱旋 熊本では連日満席に
先に思いついたのは「タイトル」その後ストーリーを
熊本県山鹿市(やまがし)の歴史ある街並みと文化を舞台にした、映画「骨なし灯籠(とうろう)」が10月18日から名古屋駅前のミッドランドスクエアシネマで公開されています。1時間48分の上映が終わると、鑑賞する客で埋められた場内は、作品への共感と余韻に包まれました。 脚本・監督の木庭撫子(こば・なでしこ)さんは、名古屋市出身の脚本家、放送作家として活躍。名古屋や東京のテレビ局に勤めてきた夫で本作品のプロデューサー民夫さんの定年を機に、夫の故郷である熊本県山鹿市(やまがし)に移住しました。 2人は「熊本やまが映画プロジェクト」を立ち上げ、今回の映画作りを始めました。 「タイトルをまず先に思いついたところからストーリーを作ったんです。『(伝統工芸の)山鹿灯籠(やまがとうろう)』って和紙で作られていて骨がないから“骨なし灯籠”とも言われています。それで逆に、“骨(骨壺)を持った主人公”が登場したらどうだろうと」(木庭撫子監督) 冒頭、亡くなった妻の遺骨を納めた骨壺を抱えて山鹿を訪れる、主人公の市井祐介は、深い悲しみからまるで死に場所を求めに来たかのように街をさまよいます。 美しい山鹿の映像に骨壺を抱きかかえた男の姿。一見いびつに感じられるその光景が、主人公を見守る登場人物たちによって徐々にしっくりと各シーンの中に落ち着いていきます。
観客は映画を自身の経験と重ねていく
主人公・祐介は住民たちのさりげないやさしさに包まれて、山鹿での生活を始めます。それでも断ち切ることができない亡き妻への思い。そこへ妻に似た女性と出会い、祐介の人生が動きはじめます。 「この映画はああしなさい、こうしなさいとか、頑張れとかそういうセリフは一切ないです。登場人物がさりげなく接しながらもちょっと気を配っている優しさを心がけました」(木庭撫子監督) 最愛の妻を失った主人公の大きな悲しみを、だれかがひとりで受け止められるものではありません。 さりげない毎日の中でたくさんの人たちに声をかけられながら主人公は前に進んでいきます。観客は、映画を追いながら自身の経験を重ね、作品への共感を呼びます。