「希望退職」と「退職代行」労使双方のシビアな眼=2024年を振り返って(6)
人員過剰なのか、人手不足なのか。日々、全国で収集する企業データをみていると方向感を失いそうになる。2024年は「雇用流動化」が加速したように感じる1年だった。 上場企業の「早期・希望退職」は勢いを増し、2024年は1月~11月15日までに募集が判明したのは53社で、2023年1年間の41社を上回った。募集対象は9,219人で、3年ぶりに1万人を超えるのは確実だ。 実施した企業の業績は、直近の本決算(単体)で約6割が最終黒字だ。業績不振でもないのに募集する企業が多いのが特徴だ。そして、これまでは中高年が中心だったが、最近は20代の若手まで対象年齢が広がっている。人手不足の時代だが、人員削減に斟酌はなくなった。 こうした背景には、「賃上げ」と「ミスマッチ」がある。最近の賃上げ機運の高まりは悪いことではないが、企業は中長期的な視点で売上高人件費率(もしくは総利益人件費率)をシビアにみている。成長が見込めない事業はドラスティックに廃止し、人件費を引き下げ、成長や高い利益率が見込める事業に人材を投入する。将来が厳しい事業部門には、これ以上資本を投入できないと判断する。 複数の事業部門を持つ企業は、部門間で人材を融通できる。だが、成長が見込める事業で求めるスキルにマッチしないケースも少なくない。これが希望退職を加速させる背景だ。DXへの取り組み強化、安全保障を掲げるサプライチェーン再構築など、企業を取り巻く環境は大きく変化している。利益を生み出す事業そのものが永久ではない。企業は事業継続を前提に、部門の再構築を判断する。そのため、2025年はさらなる希望退職の募集が増える可能性が高い。
一方、TSRが今年6月に実施した「退職代行に関するアンケート」調査では、約2割の大企業(資本金1億円以上)が「退職代行を活用した従業員の退職があった」と回答した。これは人間関係が希薄化したからなのかわからない。ただ、少子高齢化が進み、人手不足が深刻化し、転職市場は活況を呈している。現在の勤務先での待遇改善、ステップアップの機会を望むより、転職で手っ取り早く実現できると考える若者も少なくないのだろう。 日本の終身雇用制度は、欧米と同様に有名無実化するのか。企業と働く人が、同じ立場で互いのポテンシャルを吟味している。