町の定食屋はなぜ魅力的なのか…料理の味だけじゃない「おいしさ」の正体
人の物語としての「定食屋」
大平:取材では、心を明かしてもらうのに時間がかかるんですけど、多分温めないと話してくださらないんですよね。そこで編み出したのが、撮影している間に店主さんを独占して雑談を始める。そうすると40~50分話せる。 マスコミが取材をしているお店ならまた同じ話をするのも嫌だろうし、自分も同じ話書きたくない。事前に記事が出てるところは、あらかじめ読んで、他に出ていないボールを投げるようにしています。 原田:一回だけ取材させてもらった時に思ったのが、実をいうと売れ筋以外で「この料理が一番自信がある」っていうものがあったりするんですよね。でも、そうじゃないものが売れちゃってる。 大平:ああ、多いですね。 原田:それって人生と同じで、選べない。店も人みたいな感じで。たまたまテレビ出ちゃったら売れちゃったとか。本当に店って人の人生と似てるなって思いました。
本のいいところはみんなが気付かなかった話を引き出せること
大平:本の良いところって、活字にするとご本人も気付いていないことにフォーカスできること。おこがましいですけどカウンセリングだなって思うこともあって。 原田:そうですね。 大平:メインじゃないところにその人の真実があることが多いから、そうじゃないところにボールを投げた時に、思わぬ深いお話が始まったり。ブルドックっていうデカ盛りのお店があるんですけど、「デカ盛り」を書いているメディアはいっぱいあって。 でも、この店主は元々ミュージシャンだったんです。話を聞いたら、父ちゃんが火事起こしたって言って。その時に兄弟で自分がミュージシャンをやってたんだけど、食えない時に神保町の定食屋で生き永らえたことがあって。 そんな定食屋を父ちゃんが今やってるから、今度は俺が恩返しする番だとギターを置いてフライパンを持ったって話をしてくれたんです。 そこまで行くまでにインタビューはちょっと時間がかかるんですよね。でも本の良いところは、そこに焦点を当ててみんなが気付かなかった温かい話が引き出せることだと思うんです。 【原田ひ香】 1970年神奈川県生まれ。2005年「リトルプリンセス2号」で第34回NHK創作ラジオドラマ大賞。07年「はじまらないティータイム」で第31回すばる文学賞受賞。著書に『ランチ酒』『ランチ酒 おかわり日和』『ランチ酒 今日もまんぷく』『三千円の使いかた』『口福のレシピ』『一橋桐子(76)の犯罪日記』、「三人屋」シリーズなどがある 【大平一枝】 作家・エッセイスト。長野県生まれ。 市井の生活者を描くルポルタージュ、 失くしたくないもの・コト・価値観を テーマにしたエッセイを執筆。 連載に「東京の台所2」 (朝日新聞デジタルマガジン&w)など (※本記事は2024年11月7日、本屋B&Bで行われた対談を再構成したものです) <構成/女子SPA!編集部> 【女子SPA!編集部】 大人女性のホンネに向き合う!をモットーに日々奮闘しています。メンバーはコチラ。X:@joshispa、Instagram:@joshispa
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