町の定食屋はなぜ魅力的なのか…料理の味だけじゃない「おいしさ」の正体
東京は「ここでしか書けない物語」の宝庫
大平:『あさ酒』だけじゃなくて、原田さんって絶対町が出てくる。何年か前にトークイベントに伺った時に、町から題材を探すと聞きました。著書の『古本食堂』も町が題材なんですよね? 原田:はい。神保町ですね。 大平:町と食の繋がりを凄く大切にされていますよね。私もその時『東京の台所』をやっていて、代官山と中目黒は、ひと駅なのにまるで違う。 取材で電車使うんですけど、その方の家へ行くまでの風景が町ごとに違って、特に「スーパーマーケットないな、この町」とか。取材の時はまずその話から始めるんですね。「スーパーはどこに行かれてるんですか?」って。 「今ネットで買ってて」とか「あっちの駅にいいのがあって」「15分歩いたらこんなお店があって」とか。そんな質問でその暮らしを掘り出せるので。 「町」を小説のキーにしているところに興味持ちました。 原田:そうですね。こんなに一つひとつの町の表情が違うし、それぞれ栄えているっていうのは東京ほどないと思ってるんです。 大平:ここでしか書けない物語になりますよね。
「おいしい」をどう表現するか?困った時の神さま
大平:あと、私もう一つ聞きたかったことが。 「チキンカツ」とか同じような料理が出て取材する時、「サクッとしている」とか「ジューシーな肉汁」とか同じような表現になってしまいそうな時のお助け作家はいますか? ちなみに、私は開高健さんです。 『新しい天体』という本を最近読んで……。おいしいと思ったことの7割は「味」かもしれない。でもあと3割はお店の雰囲気やおかみさんの人柄、外の風、出汁の香りみたいな言外に感じるものがおいしいって感じるんやっていうことが書かれていて……。 私は迷ったら開高さんに行くんですけど、原田さんはそういった時の神さまはいますか? 原田:そうですね。田辺聖子さんとか、最近もまた読み返してやっぱりお上手だなと思います。あとは、さっきもそこに置いてあって新刊買っちゃったんですけど、柚木麻子さん。 おいしいって言うのをどういう風に表すのかは難しいですけど、大平さんの今回の著書の中で「定食の値段をほとんど上げていない」っていうのはある種の褒め言葉として色んな所に出てきていて、そういうところが共通しちゃうところがあるじゃないですか。 大平:あります、あります。 原田:でも大平さんはそれぞれに違う表現で書かれていて、素晴らしいと思いました。定食屋さんそれぞれのポリシーの違い、「上げるの忘れちゃったわ」とか「絶対上げてません」とか言い方の違いで変化を出されてるんだなと。 食べ物とかの話とは違いますけど、褒め方がそれぞれお上手だなと思いました。