猫も感染!? 犬だけじゃない、蚊が原因の「フィラリア症」。知らずに感染していることも!
診断と治療がもっとも難しい
犬の場合、メスの犬糸状虫が出す抗原を検出する抗原検査を行ってフィラリア症を診断するのが一般的だが、猫の場合この「診断」が非常に難しい。 猫の場合、成虫になる前から猫に症状が出る可能性があり、その時点で上記の抗原検査をしても偽陰性となってしまう。また、心臓に寄生する成虫の数も少ないため、オスだけが寄生していた場合も検査結果は陰性となってしまう。 この他、フィラリア症と確実に診断できる検査方法は確立されておらず、疑わしい猫に対して、胸のレントゲン、心臓のエコー、抗体検査や抗原検査を繰り返し実施していくしかない。突然死した猫の遺体の剖検を行い、初めてフィラリア症だったと判明するケースもある。 そして、なんとか生前にフィラリア症と確定診断できたとしても、根本的な治療方法は存在しない。咳などの呼吸器症状を緩和するために、ステロイドや気管支拡張剤などを使用して緩和治療を行なっていくしかない。成虫を殺してしまうと、先に書いた第2病期の症状が起こりうるため、それも推奨されてはいない。
猫こそ、フィラリア症の通年予防がおすすめ
このように、猫のフィラリア症は、知らず知らずにかかっている可能性があるにも関わらず、診断や治療が難しいやっかいな病気だ。猫の体内で犬糸状虫が育ってしまい、成虫になってしまうと、殺すこともリスクが高いため、下手に手出しができなくなってしまう。 いわゆる「フィラリア予防薬」と呼ばれている薬剤は、この犬糸状虫が心臓に移行する前、血液中をさまよっている幼虫の内に殺してしまうものである。成虫が猫の体内で死亡すると最悪突然死のリスクがある、と書いたが、幼虫が死亡する分にはそこまでのリスクがないため、猫のフィラリア症はなにより予防が大切、ということになる。 当院でも、猫に関しては、完全室内飼育だったとしても、フィラリア・ノミ・マダニの通年予防を推奨している。ちなみにアメリカの犬糸状虫予防団体AHS(American Heartworm Society)も、猫に対し12ヶ月間のフィラリア予防を推奨している(※1) もちろん我が家の猫2頭も、院内をお散歩したり窓際で外を眺めたりすることがあるため、フィラリア・ノミ・マダニは通年予防を行っている。 猫の場合は、首の後ろ、肩甲骨の間に薬剤を少量垂らすだけで予防ができる。中には、予防薬との相性が悪く、滴下部位の毛が抜けてしまうこともあるが、現在何種類か予防薬があるので、その場合はかかりつけ医に相談の上、別のメーカーの予防薬を試すとよいだろう。 我が家の猫「がんも」は皮膚が弱く、どのメーカーの予防薬を垂らしても脱毛してしまうため、現在は3ヵ月効果が持続する薬剤を使用して脱毛の頻度を下げつつ、しっかりと通年フィラリア予防を行っている。 当院には、爪切りとワクチンおよびフィラリア・ノミ・マダニ予防薬をセットにしたプランがあるため、毎月、爪切りと予防薬の滴下を行うために来院してくれる猫が多数いる。毎月の通院により、猫側もさらにオーナーも病院に慣れてくれるし、こちらも猫の性格が把握できるため、いざ検査が必要な時などに事前に抗不安薬を処方するなど適切な対応をとることができる。 「予防薬まで使わなくても、蚊よけスプレーなどで充分では?」と思う方もいるかもしれない。確かに、最近はペットがいても使用できるものも増えているが、猫の場合、犬では問題がないミント(ハッカ)やティーツリーなどの天然ハーブ系は悪影響が出ることもある。確実にフィラリアを防御したいと考えるなら、やはりフィラリアの予防薬を動物病院などで処方してもらうことを薦めたい。 いままで、フィラリアのことなんて気にしていなかった、というキャットオーナーの方も、これを機に予防を検討してみてはいかがだろうか。 ※1:https://www.heartwormsociety.org/heartworms-in-cats
片川 優子(作家・獣医師)