「あなたとは離婚するわ!」50代妻が「若年性アルツハイマー」になった「同級生夫」を見捨てたワケ
「夕飯を食べていないと言い出したんです...。えっ?って。その日は生姜焼きとポテトサラダ、味噌汁と夫の好きなメニューでした。ビールも焼酎も飲んで、締めにご飯まで食べていました。それなのにそれを忘れてしまったんです。たった数時間前のことなのに...」 郁子さんもこの状況には、さすがにマズイと感じたという。夫に食べたことを思い出すように詰め寄ったが、食べていないの一点張り。その上、この時間から何か食べると言い出した。 「これは変だと思いました。食べたものを思い出せないんじゃなくて、『食べたこと自体』を忘れているなんて。急に不安がよぎりました...」 ただこのときも郁子さんはまだ、部署移動によるストレスが原因だと考えていた。 「その頃、うつ病についてすごく調べていたんです。ストレスをきっかけに発症すること、症状として物忘れや不眠という症状があることも書いてありました」 確かにうつ病にも物忘れの症状があるらしい。衰えるのは記銘力という新しいことを覚える力で、例えば仕事で打ち合わせをしたけれど内容を思い出せないなどだ。 「後から知ったんですが、うつ病と若年性アルツハイマーの物忘れは混同されやすいようなんです。夫のように記憶が丸ごと抜け落ちているのは、若年性アルツハイマーの症状の顕著なものですが、私は完全にうつ病から来るものだと思い込んでしまったんです。そのとき、もう少しちゃんと調べればよかったと後悔しています……」 結局夫は郁子さんに宥められて、食事を諦めて床についた。容子はその日、なかなか寝付けなかったという。 それから1週間くらい経った頃、夫がまた寝る間際になって夕食を食べていないと言い出した。 「また同じだと思って、前回のように宥めようと思ったんですけど……。全然、引いてくれなくて、結局喧嘩になって、勝手にすれば!と言って、私は先に寝たんです」 夫がインスタントラーメンを食べ始めた音がキッチンから聞こえてきた。そして夫がソファに座った音も。今日は決まりが悪くて、きっと寝室には来ず、ソファで寝るんだろうな……郁子さんはそんなことを考えながら、眠りについた。 そして翌朝、郁子さんはいつも通り5時半に鳴った目覚ましを止めて、キッチンに向かった。 「ドアを開けて『あれ?』って。ソファにいると思っていた夫がいないんです。トイレかな?と洗面所に行きましたがいない。部屋中探し回りましたが、どこにもいません。ゾワっとして玄関に行くと鍵が開いていて、ゴミ捨てなんかの時に履くサンダルがなくなっていたんです」 そして、夫婦を待ち受けていたのはあまりに残酷な結末だった。次なる問題は後編にて詳報する。 取材・文 悠木律