雲を見つめ、気候変動予測を精緻に 日欧衛星「はくりゅう」打ち上げへ
史上初、衛星で「ドップラー計測」
はくりゅうは上空を周回しながら4つの機器を同時に使って観測し、データを組み合わせて成果を上げていく。 機器のうち日本が担当したのは雲の分布や構造を観測する「雲プロファイリングレーダー(CPR)」で、JAXAと情報通信研究機構(NICT)が開発。NECが設計、製造した。CPRから電波を出し、雲に当たって跳ね返ってくる電波を受信し、雲粒の大きさ、水分の量、雲の立体構造を捉える。衛星のレーダーでは史上初めて「ドップラー速度計測」により雲粒や雨粒の上昇、下降速度を測定し、雲の中の動きを解き明かす。
ドップラー速度計測では、雲粒や雨粒が、秒速7キロで移動する衛星から遠ざかる、つまり落下している場合は、跳ね返ってくる電波の周波数は放った元の電波より低く、逆に衛星に近づく、上昇している場合は周波数が高くなる。CPRはこれを精密に捉え、雲粒や雨粒の「ドップラー速度」を求める。特に雲の中の上昇流は雲粒の生成に関連しており、CPRが雲の生成過程の理解に大きく役立つという。 雲を観測する衛星レーダーはこれまでにもあったものの、ドップラー速度計測の機能がなく、垂直方向の動きを捉えられなかった。
JAXAの富田英一プロジェクトマネージャは、CPRの高感度を主に2つの工夫で実現したと説明する。一つは衛星の軌道を高度400キロと低くして地表に近づけたこと。もう一つは、直径2.5メートルに及ぶ大型アンテナの開発だ。「秒速7キロで進む衛星から、同2~8メートルほどしかない雲の垂直方向の速度を計測するのは、非常に難しい。アンテナの向きが少しでもずれると、衛星の速度が計測に混入してしまう」。そこで、熱で変形しにくいアンテナを開発。また、高速で繰り返しパルスを出せる送信機を開発した。一般的な降雨レーダーの10分の1ほどと短い、波長3.2ミリの電波を使う。
日欧協力で知見を深める
残る3つの機器は欧州が開発した。「大気ライダー(ATLID)」はCPRがカバーできない小さな微粒子や薄い雲を観測する。CPRなどのレーダーは観測に電波を使うのに対し、ライダーはレーザー光を使う。このほか、雲や微粒子の水平方向の分布を観測する「多波長イメージャー(MSI)」と、大気上端の放射収支を捉える「広帯域放射収支計(BBR)」を搭載した。 ESAのディーク・ベルナート・プロジェクトマネジャーは「衛星を軌道に乗せて3カ月後に観測を始め、半年後には世界の科学チームに全データを提供する。特に日欧のチームが非常に高品質で興味深いデータを受け、知見を深めていくだろう」としている。 はくりゅう関連の開発費は、JAXAがCPR開発と固有の地上システム整備費用を含め83億円、NICTは非公開。ESAは打ち上げ費用を含め8億ユーロ(現在のレートで約1350億円)規模。日欧が地球観測衛星を共同開発するのは初めてという。