雲を見つめ、気候変動予測を精緻に 日欧衛星「はくりゅう」打ち上げへ
しかし従来、雲粒や微粒子の高精度観測が難しく、雲で起こる現象の仕組みは十分に解明されていない。「ひまわり」などの気象衛星は雲の上端しか観測せず、内部の立体構造まではつかめない。また地上からの観測では、全地球の雲を観測しきれない。そこで、はくりゅうが雲や微粒子を全地球規模で観測。特に、雲や微粒子の垂直方向の動きの情報を積み重ね、気候に与える影響の解明につなげる。 気候変動に関する政府間パネル(IPCC)が2021~22年に発表した第6次評価報告書で、世界平均気温は1850~1900年に比べ、温室効果ガスの排出が多い想定で2081~2100年に2.8~4.6度上昇するなどと、複数のシナリオが示された。また、気温が上昇するほど陸域の降水量が増え、北極の海氷が減り、海面が上昇するなどとした。こうした予測では、気候モデルの間で誤差が大きいことが、制約となっている。
シミュレーションと観測データを連携
気候変動の要因別でみると、二酸化炭素(CO2)やメタン(CH4)などの温室効果ガスは予測の誤差が小さい。これに対し微粒子や、微粒子と雲の相互作用は、これらの詳しい効果が未解明で、誤差が大きいままだ。はくりゅうの観測を通じてこれらを詳らかにし、予測の質を高めるねらいがある。
気候変動や気象の予測のため、観測データを、スーパーコンピューターを活用した数値シミュレーションモデルと連携させることの意義も、大きいという。はくりゅうチームの東京大学大気海洋研究所の佐藤正樹教授(気象・大気科学)は「数値モデルは(世界屈指のスパコン)富岳などを活用できる日本の得意分野だ。モデルによる雨や雲の表現を観測データで修正できるため、この衛星に非常に期待がかかっている。集中豪雨や台風などの極端現象のモニタリング、シミュレーションに役立つ」と説明する。
また、観測データと数値モデルの連携により「地球デジタルツイン」を構築することで「われわれが(気象や気候に関連する)質問をすると、生成AI(人工知能)が的確に答えてくれる時代が来る」という。