「韓国ドラマを見たら銃殺」北朝鮮から韓国へ決死の脱出劇…20代脱北女性の独占取材で見えてきた「民心」を恐れる金正恩総書記の姿
中国製テレビで見た“韓国ドラマ”に憧れて
脱北から約1年、カンさんはソウル市内で母親と暮らしながら、大学に進学するための勉強をしている。 北朝鮮ではホタテ貝漁を営んでいたカンさん、母親は民間治療を行う仕事をしていて、北朝鮮の中では恵まれた生活を送れていたと言うが、なぜ脱北を決意したのだろうか。 カン・ギュリさん(仮名/20代前半): 統制をたくさん受けた。自分の好みを選ぶ自由があるのに、それをできないようにするからすごくストレスを受けた。髪型も変なものではないのに、「韓国式だ、傀儡(かいらい)式だ」と言われた。 カンさんが育った北朝鮮の海辺の地域では、中国製のテレビを使うと簡単に韓国のテレビ番組が映ったという。 子どもの頃からたくさんの韓国ドラマに接した。「冬のソナタ」に「梨泰院クラス」などドラマを通して、韓国社会を知るたびに憧れはどんどん強くなり、「こんな世の中で一度でも生きてみたい」と思うようになった。 一方で、北朝鮮当局の取り締まりは厳しかったようだ。道を歩くたびに警察に呼び止められ、髪型や服装について指摘され「サムジヨンに送るぞ」などと脅された。 サムジヨンは金正恩総書記の肝いりで開発が進む地域で、肉体労働の強制を示唆していた。そのときは、賄賂を渡すことで見逃してもらっていたという。 カン・ギュリさん(仮名/20代前半): 北朝鮮では、言論の自由もなく、旅行の自由もなく、着る自由もない。韓国ドラマを見たから銃殺されるのはおかしい。
“統制と分断”強める北朝鮮 韓国映画見た22歳男性を公開処刑
2024年6月、韓国の統一省が脱北者141人の証言などに基づき公表した報告書によると、2022年に北朝鮮の南西部の地域で、韓国映画などを見た22歳の男性が公開処刑された。男性は、韓国映画3本と歌70曲を視聴し、7人にこれらを渡したとされている。 2021年にも同様の処刑が確認されているという。北朝鮮は2020年に「反動思想文化排撃法」を制定し、韓国ドラマなどの視聴を禁じ、流通させた場合には最高で死刑とした。 また、2023年には「平壌文化語保護法」を制定し「アッパ(お父さん)」など“韓国式”の話し方を処罰の対象とするなど、住民への統制を強めている。 さらに、北朝鮮は韓国との分断も進めている。 金総書記は2024年1月の最高人民会議で「韓国を“第一の敵対国”と位置付け憲法を改正すべき」と表明し、「統一いう概念自体を完全に除去しなければならない。約80年間の南北の関係に終止符を打つ」と宣言。10月には韓国とつながる道路と鉄道を爆破した。 北朝鮮は、現地メディアを通して「戦争抑止のための自衛的措置」と強調したが、韓国政府は「脱北を防ぐための措置」とみている。 “統制と分断”を進める北朝鮮について、2023年10月に脱北したカン・ギュリさんは次のように話す。 カン・ギュリさん(仮名/20代前半): 結局、私たち若い世代を一番怖がっているのではないだろうか。