箱根駅伝、山上り5区の短縮で「山の神」が消える? その是非を考察。
箱根駅伝から「山の神」が姿を消すかもしれない。関東学連が小田原中継所の位置について、来年正月の第92回大会終了後、3年以内をメドに見直し、5区の距離を短縮する方向で協議を始めると発表したからだ。小田原中継所は、従来設置されていた「鈴廣」の再整備事業に伴い、06年の第82回大会から東京寄りに約2.5キロ移動した。その結果、4区が21.0キロから最短距離の18.5キロに、5区は20.9キロから最長距離の23.4キロ(再計測後は23.2キロ)になった。 ご存知のように、小田原中継所が2.5キロ移動しただけなのに、山では信じられないようなドラマが起きている。順天堂大・今井正人(現・トヨタ自動車九州)、東洋大・柏原竜二(現・富士通)、青学大・神野大地は「山の神」と呼ばれるほど神がかり的な快走を演じて、大会を盛り上げた。同時に5区の破壊力は凄まじいものがあった。 4区・5区の距離変更後、前回までに10大会が行われたが、5区で区間賞を獲得した大学すべてが往路を制して、そのうち7チームが総合優勝まで突っ走っている。個人の実感でいうと、5区は10区間のひとつ(10%)ではなく、25%ほどを占めていると思う。その一方で、低体温症や低血糖症でフラフラになる選手も多く、箱根山中で3人が途中棄権している。5区は明暗がハッキリとわかれる区間になったのだ。駒大・大八木弘明監督も以前取材したときに、「近年の箱根は1~2区で一気に行かれると大差をつけられる心配がありますし、なによりも5区に(好選手が)いないと致命的な差がついてしまう。昔より今のほうが大変ですよ」と苦笑いしていた。 思い返すと、5区が最長距離になったとき、そのことを歓迎していた監督は少なかった。それどころか、「5区の距離を短くすべきだ」という声が年々強くなっていた。現場の意見はどうなのかと、拓殖大・岡田正裕監督に話題を振ったところ、「個人的には5区が長いことでレースがおもしろくなったと思いますよ。でも、『5区で勝負が決まる箱根駅伝でいのか? 』と言う監督が多かったのも事実です。ルールが決まればそれでやるだけですけど、距離が元に戻れば、また戦術は変わると思いますね」と話してくれた。 そこでちょっと気が早いが、5区の距離が短縮(元に戻ったと仮定)した場合、箱根駅伝の戦いはどう変わるのかを考えてみたい。まず参考になるのが、距離延長前の10大会(第72~81回)だ。振り返ってみると、5区で区間賞を獲得した大学が往路優勝したのは3度で、総合優勝に輝いたのは1度(第73回大会の神奈川大)だけ。現在の箱根駅伝とは大きく様子が異なる。