箱根駅伝、山上り5区の短縮で「山の神」が消える? その是非を考察。
10区間トータルの戦略を考えると、第74回~81回大会まですべて2位以内で、4連覇を含む5回の総合優勝を成し遂げた駒大の戦い方がひとつの教科書になるだろう。黄金時代の駒大は5区の区間賞は一度もない(ただし、すべて5位以内と好走している)。反対に目立つのが4区と9区の活躍だ。8年間のうち、4区は4度、9区は6度の区間賞を獲得している。当時のチームには“絶対的なエース”がいなかったこともあり、2区での区間賞もなかった。しかし、ハイレベルの選手を4~5人そろえていたため、「準エース区間」の4区と9区でアドバンテージを稼ぎ、レースを優位に進めることができたのだ。 もう少し付け加えると、駒大は往路をトップが見える位置で折り返して、選手層の厚さで勝る復路で逆転するというのが勝ちパターンだった。4連覇を果たしたときは、そのうち3回が復路での逆転Vだ。いずれにしても、4区・5区の距離が元に戻れば、現在のような「5区」の一極集中ではなく、勝負を仕掛ける区間が散らばることになるだろう。ひとりの神(エース)ではなく、再び、「総合力」で勝負する時代がやってくるの は間違いない。 エースを5区に無理やりコンバートする必要がなくなり、近年は色褪せつつあった“花の2区”もかつてのような賑わいを取り戻すかもしれない。また、4区の距離が長くなることで、3区に起用されることの多いスピードランナーが4区にまわることも考えられる。10区間のパワーバランスが少しずつ変わっていくはずだ。 ただし、当時2年生だった順天堂大・今井正人が第81回大会の5区で11人抜きを演じており、距離が短くなっても、「山の神」クラスのクライマーが登場することで、レースをひっくり返すことはできる。現在の「5区」のインパクトがあまりにも大きいこともあり、小田原中継所の場所を元に戻したとしても、しばらくは5区に好選手を配置する流れは続くだろう。 今井は距離延長後も当然5区を走ったが、距離が短縮する場合、「山の神」を抱えている大学としては悩ましい問題が待っている。2区へのコンバートか。5区で起用し続けるか。本音をいえば、「山の神」が卒業するまで、距離変更は待ってほしいところだろう。その他の大学からすれば、5区の距離が短い方が、他で挽回できるチャンスが増えるだけに、戦いやすくなる。 5区の距離変更のカウントダウンが近づきつつある箱根駅伝。それまでに何人の「山の神」が降臨するのか。そして、他の区間でスターが現れるのか。数年後の“変更”を頭に入れながら観戦していただければ、正月の箱根駅伝がさらに楽しめると思う。 (文責・酒井政人/スポーツライター)