技術的に不可能と言われた「仮想空間上に宇宙を作る」事業が実現できた理由
ビッグデータ解析やオンライン決済などを手がけるメタップスを起業、上場もさせた佐藤氏が次に選んだフィールドは「宇宙」。手がけている事業は、仮想空間上に宇宙を再現した「宇宙デジタルツイン」を作るというものだ。その壮大な構想は、どこから生まれ、どこへ向かうのか? (取材・構成:横山瑠美) ※本稿は、『THE21』2025年1月号の内容を一部抜粋・再編集したものです。
宇宙を「民主化」するプラットフォームになる
──スペースデータは、仮想空間上に地球を再現した「地球デジタルツイン」や宇宙環境を再現した「宇宙デジタルツイン」を開発しています。なぜ、こうした事業を始めたのでしょうか? 【佐藤】今から10数年前、クライアントからデータを預かって分析し、フィードバックする仕事をしているときに、「データから見えてくるものはこんなに多いのか」と驚きました。 それで、そのデータは人間の行動に関するものでしたが、地球や宇宙のデータを使えば、地球や宇宙を仮想空間上に再現することもできるのではないか、と思ったのです。つまり、デジタルツインを作れるのではないか、ということです。 そして、誰もが地球デジタルツインや宇宙デジタルツインを使えるようにしたら、新たな「世界」を作れるのではないか――。そう考えたのがきっかけです。 ──地球デジタルツインで作られた「バーチャル新宿」を、人気オンラインゲーム「フォートナイト」で遊べるようになったことも話題になりました。また、国土交通省や国連との共同プロジェクトも行なっていますね。 【佐藤】国土交通省とは、消費者向けサービスや都市開発などに役立てられるハイクオリティなデジタルツインデータの開発を進めています。 国連とは、地球デジタルツインを使ってシミュレーションを行ない、災害対策などに役立てようとしています。2024年の国連「未来サミット」では、海底火山噴火と津波の被害に遭ったトンガ王国のデジタルツインを共同開発して、デモンストレーションを行ないました。 ――もともと、このような形での事業化を考えていたのでしょうか? 【佐藤】始めた当初は、個人の趣味のようなプロジェクトで、ビジネスにしようとはまったく考えていませんでした。 ところが、2021年に東京やニューヨークのデジタルツインをSNSで公開したところ、JAXAも含め、世界中の1000社以上から「コラボしたい」「使いたい」というお声をいただきました。膨大な需要が確認できたので、趣味で終わらせるのはもったいないと思い、初めて本格的に事業化を考えるようになりました。 ――近々、宇宙デジタルツインもリリースされるということですが(取材は2024年10月)、こちらについては、どのような事業を考えていますか? 【佐藤】まず、国際宇宙ステーションの内部を再現したデジタルツインをリリースします。宇宙は、低軌道上、月面、火星、深宇宙などで環境がまったく異なるため、微小重力や空気があって地球に近い環境の国際宇宙ステーション内の再現から着手しました。宇宙デジタルツインによって、宇宙に対するリテラシーがなくても宇宙を活用できる環境が生まれます。 これまでは、宇宙を使った研究開発などをするのは、ほとんどの企業にとって容易なことではありませんでした。しかし、宇宙デジタルツインを使えば、簡単に、低コストでできます。仮想空間にアクセスすればいいだけですから。 今の宇宙の状況は、1990年代前半のインターネットに似ています。多くの人たちにとって、「すごいものらしいが、自分たちには使えないし、使い方がわからない」という状況です。 インターネットが「民主化」された、つまり、誰もが使えるものになったように、宇宙も誰もが利用できるものにしたい。宇宙デジタルツインを、そのためのプラットフォームにしたい。将来的には、このプラットフォーム上に数多くの企業などが集まり、共同でスペースコロニーを構築することを構想しています。