年末年始はゆっくり読書!著述家・湯山玲子さんの「我を忘れて夢中になった」3冊
誰しも人生の傍に本の存在があるのではないでしょうか。 時に新しい扉を開き、背中を押し、心を癒してくれることも。素敵に年齢を重ねる13人の方々の〝かけがえのない本〟を聞いてみました。湯山玲子さんの人生の「きっかけ」作りをしてくれた本は? 【画像一覧を見る】
みんなと違う自分を肯定できた一冊。
「思い返すと現代と未来についての〝予言書″のような本」と湯山玲子さんが挙げたのは、中学時代に読んだ『城』。 「城主から測量師として招かれた男が城に入ろうとするのですが、城の話はタブーで村人は何も語らないし、次々と邪魔が入り、一向に城に入れてもらえない。そういう話が続くんですが、友達も多いのに居場所がない疎外感や集団の同調圧力というものが、中学一年生当時の自分とあまりにもシンクロし、我を忘れて夢中になった一冊。測量師の必死の努力、つねに気になる存在として君臨する権力集団の存在など、その後の人生にも、幾度となく立ち現れた、集団と個人の問題が予見的に書かれていましたね。今も私はいろんなジャンルの仕事をしていて、ひとつのところに居場所を作っていない。ある意味、この測量師のように生きることになってしまったことが面白い」
人間の気高さを知り、エンパワーメントに。
30代で魅了されたのが村上龍の『イビサ』。 「ドラッグ、セックスの話なんだけど、溺れて堕落する話ではなくて、世界を自分で塗り替えていくような、生命力の強さを感じる作品。主人公は地獄のような状態なんですが、他者との関わりを恐れず、自分でジャッジして選び取っていく」 冒険しリスクを取れという生き方は、当時会社を辞めてフリーランスになった自分の心象と重なった。実際のイビサはその後、仕事で何度も取材することにもなり、物語の空気感に大いに納得」
受容する怖さと美徳。日本人を再発見できる。
「日本人あるあるの考え方に改めて驚愕した」のが『わたしを離さないで』。 「主人公たちは逃げずに、無抵抗に運命を受け入れてしまう。みんなが同じ状況なら私も同じでいい、という自己犠牲的なムードは、日本人の中に美徳としてあるわけで、そこを突いてくる。どんなひどい状況も自然なこととして受け入れ、時に人間的成熟に帰結してしまうというメンタリティですよ。だからこの物語には悪い人は1人も出てこない。映画よりもこれは小説がおすすめ。諦観する生き方の美意識、というアナザーワールドが口を開けます」