阿川佐和子×伊藤比呂美「私、結婚大好きなんですよ。もう、どんどんしたいわ」「亭主って人の話、聞いてないですよ」
3月23日、東京・東銀座で開催された「婦人公論ff倶楽部」オープン記念トークイベント。第1部には、本誌でも人気の阿川佐和子さんと伊藤比呂美さんが登壇しました。おふたりが考える、老いや孤独と向き合いながら人生後半を楽しむ方法とは――(構成:田中有 撮影:岸隆子) 【写真】楽しそうに話す伊藤さん * * * * * * * ◆作家になっていなければ 阿川 こんにちは。お久しぶりです。今日は「年をとるって面白い」というテーマでお話をするそうで。 伊藤 面白いんですか? 阿川 そうとも限らない。本当に面白いかどうかはこれから検証していくとして、まずは会場の皆さんから事前にいただいた質問にお答えしていきましょう。 「作家になっていなければ、何の職業に就いていましたか」。(京都府・60歳) 伊藤 私は簡単ですよ。学校の先生。3年前まで3年間、早稲田大学で教えていて、むっちゃ楽しかった。天職ですね。 阿川 天職って、どういうことですか。 伊藤 昔、大学を出て1年だけ中学校の教員やったんです。よかったんだけど、不倫したり詩を書いたり忙しくって(笑)、悔いが残ったの。だから大学では、心魂傾けて学生に向き合いました。阿川さんは? 阿川 私は専業主婦になるつもりで、20代は何十回もお見合い。父が物書きで、一日中家にいて不機嫌な家庭で育ったわけですよ。だから父と正反対の、情緒の安定した会社勤めの人と結婚できたら理想だなと。 伊藤 ファンタジーですね。 阿川 20代の終わりころにテレビ局に呼ばれてレポーターになり、そのあとは原稿書いてみませんかって言われて、それがグズグズ続いて今に至ります。 伊藤 最初はお父さまに添削されたそうで。羨ましいわぁ。 阿川 はじめはどれも親の七光りですよ。野望があったわけでもなく、とりあえずひとつずつ仕事に決着をつけては次に繋げているうちに年とっちゃった。
◆介護は後悔したほうがいい 伊藤 そんなもんですよね。阿川さんへの次の質問は 「独身時代と結婚した現在で一番の違いはどこですか」。(東京都・60歳) 阿川 伊藤さんは、2回結婚してるからベテランでしょ。 伊藤 婚姻届を出したのが2回。その後アメリカでイギリス人と家庭をつくり、8年前に看取りました。 阿川 伊藤さんって、こう見えてひとりが嫌いなんですってね。 伊藤 大っ嫌い。私、結婚大好きなんですよ。もう、どんどんしたいわ。(笑) 阿川 今からですか。私も63歳で結婚したからエラそうには言えないけれど、なぜしたいの? 伊藤 寂しい! 私ね、犬3匹、猫2匹いるの。話しかけて抱きしめるぶんにはいいんだけど、音楽聴いても何か食べても、いいねとか、おいしいとか、感想を述べる者がひとりも……。 阿川 でも、生きてる亭主って人の話、聞いてないですよ。 伊藤 (口をあんぐり開けて)今、思い出した。夫が生きてるときは毎日死にやがれと思ってたのに、死んじゃうと、いい男だったなと……。いい亭主って死んだ亭主なのね。 阿川 (爆笑)遠藤周作さんにお聞きした話ですけど、高齢の男性が最後まで覚えているのが、妻と娘の名前なんですって。で、女性の場合は最初に忘れるのが、亭主の名前。 伊藤 あっちゃー、ホントに。私の父、死ぬその日まで熊本で独居してて、私はアメリカで暮らしてたけど、最後は1ヵ月半おきくらいで通っていたんです。私の代わりに娘のカノコが帰っても「比呂美」、私の母のことは「お袋」って言ったり。