<新選組のルーツを訪ねる>歴史物語のなかの新選組「ふるさと歴史館」
新選組や地域にまつわる史料を常設展示している東京都日野市の「新選組のふるさと歴史館」で、明治初期から現代にいたるまで新選組作品の変遷をたどる企画展「描かれた新選組III~新選組創作 温故知新~」が6月12日までの期間限定で開かれている。司馬遼太郎作品をはじめ、何かと歴史のヒーローとして取り上げられる新選組の物語中の変遷を見てみよう。
明治初期からヒーローとして描かれてきた新選組
日野市立新選組のふるさと歴史館が、新選組作品にスポットを当てた企画展を始めたのは2年前から。来館者のなかに、新選組のマンガやアニメ、ゲームなどの作品のファンが多く含まれていたため。3回目となる今回は、明治初期の浮世絵をはじめ歴史の古い作品の展示もより充実させている。 「意外と知られていませんが、新選組は約150年近くにわたってずっとヒーローとして描かれてきたのです」と説明するのは、当企画展の担当者である松下尚学芸員。明治7年(1874)年発表の浮世絵「甲州勝沼駅ニ於テ近藤勇驍勇(ぎょうゆう)之図」(月岡芳年画)は、慶応4年(1868)の甲州勝沼の戦いにおいて、新政府軍に勇ましく立ち向かう近藤勇が描かれている。明治初期にして、近藤の勇名がすでに世間に広まっていた様がうかがえるという。 大正から昭和初期には、新選組を題材にした小説や映画が登場する。その一例として、企画展では大正14年(1925)発行のティーン層向け小説「幕末志士新撰組」(春江堂編集部作)を紹介する。近藤の活躍が勇ましく描かれているという。なお、小説としては、昭和3年(1928)の「新選組始末記」(子母澤寛作)が有名で、現在も入手可能。 映画は、大正末期の黎明期から、近藤を主役にすえた新選組映画が多数作られた。近藤役は、嵐寛寿郎や市川右太衛門といった大正末期から昭和中期にかけて活躍した時代劇スターが軒並み演じてきたという。このキャスティングからも、近藤が悪の殺人組織の長ではなく、当時のアイドル的存在である時代劇スターが演じるにふさわしい英雄として認知されていた証拠という。 昭和30年(1955)前後からは、新選組を題材としたマンガが登場。手塚治虫も「新選組」という作品を昭和38年(1963)に発表している。なお、ここまでの映画や小説、マンガでは近藤が主役で、土方歳三や沖田総司は影が薄いケースが多い。