農作物から大トロは作れるか 肉食マグロの「ベジタリアン化」に挑む
肉食魚であるマグロに魚を食べさせるのではなく、植物を食べさせて養殖しようという「ベジタリアンマグロ」の研究が進んでいる。研究開発に取り組んでいるのが東京海洋大学の佐藤秀一教授だ。一体なぜ、マグロをベジタリアン化する必要があるのだろうか。佐藤教授の研究室を訪問し、話を聞いた。
生態系にやさしいベジタリアンマグロ
「マグロをベジタリアンにする理由は、その方が生態系にやさしいからです」と説明する佐藤教授。専門は魚類栄養学で、「環境にやさしい」養殖魚のエサの研究を進めるうちに、ベジタリアンマグロの研究に発展したという。「マグロをベジタリアンにする」というのは、養殖する時のエサに植物を使った配合飼料を用いるということを意味する。 養殖魚のエサは、イワシなどの魚の切り身を使う「生餌(なまえさ)」、小魚を乾燥・粉末にした魚粉や生餌、魚油などを練り合わせた半生固形の配合飼料「モイストペレット(MP)」、魚粉などを固めた乾燥固形の配合飼料「ドライペレット(DP)」に大きく分かれる。魚が含まれる比率の多少はあるが、どのエサを使っても、ある意味「魚を使って魚を育てている」と言える。 肉食魚であるクロマグロの養殖には、生餌が使われている。平成25年度の水産白書によると、クロマグロ養殖では1kgの稚魚を出荷サイズの50kgに成長させるのに、生餌を700kg与える必要があるという。なんと、出荷サイズの14倍の量の生餌が投入される。 同白書によると、2012年のクロマグロ養殖による出荷尾数は17万7000尾であることから、育てるために消費された生餌は約12万tという計算になる。これは、日本人約240万人が1年間に消費する魚介類の量に匹敵するという。 植物を使った配合飼料の研究は、ニジマスやブリなど、マグロ以外の養殖魚が先行した。これら養殖魚の配合飼料に含まれる魚粉を、植物に置き換えようという研究だ。 もし、生餌ではなく植物を使った配合飼料を使うことができれば、約12万tの魚は獲る必要がなくなる。佐藤教授は「それらの魚を餌とする別の動物にも行き渡るようになりますので、ベジタリアンマグロは、その点で生態系にやさしいといえます」と述べた。