農作物から大トロは作れるか 肉食マグロの「ベジタリアン化」に挑む
マグロ以外の養殖魚で研究が先行したベジタリアン化
背景には、魚粉価格の上昇がある。平成26年度水産白書によると、魚粉の輸入価格は2005年から2015年の10年でおおむね上昇傾向にある。原因としては、世界的な水産養殖の需要増や、魚粉の原料となるアンチョビーの漁獲減が挙げられる。何かが不足したり価格が上昇すると代替案の検討が進むのは、よくあることだ。 佐藤教授の研究室では、ニジマス、ブリ、マダイの研究に取り組んだ結果、魚粉を一切使わない配合飼料を使って、魚粉入り配合飼料と同程度の大きさに育つことを確認済み。研究の過程で、場合によっては、タウリンやドコサヘキサエン酸(DHA)といった栄養素を補う必要があることも知見として得ている。 植物としては、トウモロコシと大豆を用いる。ともに、世界的に生産量が多く、安定供給が期待できるため。組み合わせて使用することで、互いに足りない栄養分を補完することもできる。 これらの研究の延長線上に、マグロのベジタリアン化がある。マグロ向けの植物を使った配合飼料の研究はまだ始まって間もなく、わかっていないことが多い。たとえば、成長する過程でマグロにはどのような栄養分が必要になるのか。 また、配合飼料を作ったとしても、どうやって食べさせるのかも課題だ。佐藤教授は、「マグロは魚食性の強い魚ですから、ベジタリアン化するのは至難の業です。いかにダマして食べさせるかが問題になります。お腹の中に入りさえすれば消化吸収すると思うのですが」と語る。 現在、佐藤教授は、生後間もないマグロ稚魚の生残率(生き残る率)を高める餌の研究などに取り組む。これらの研究における成果を一つ一つ積み上げることが、ベジタリアンマグロの実現に向けて近づいていくことになる。水産資源保護の観点から、「魚で魚を育てる」から「植物で魚を育てる」という動きには、今後も注目したい。 (取材・文 具志堅浩二)