江戸時代の巨匠「池大雅」の名画が韓国で発見…!「80億円を提示されたことも」所有者が困惑する、ヤクザや新興宗教まで参戦する異様な「購入依頼合戦」の内容
「国に寄贈してください」
翌'21年に韓国の「国立公州博物館」に現物を持参すると、対応した職員も日本人考古学者と同様の反応を見せた。博物館中の職員が集まるほどの騒ぎになり、絵画の周りは人だかりできたという。 「館長から学芸員まで集まって、その場で鑑定が始まった。本物という結論に至ると、『国に寄贈してください。文化財のプロジェクトに使う』と言われました。しかし私は、貴重な日本の絵画を簡単に譲っていいのか判断に迷い、ひとまず持ち帰ることにしたんです。すると帰り際、『こんな重要な絵画を個人で持っていると危ない。危険な目に遭うかも知れない。国に寄贈すべきだ』という脅しのようなことも言われました」 情報は人づてに広まり、'22年8月には現地メディア「中央日報」が「池大雅の絹本の真景山が韓国で見つかる」と報じた。そしてこの報道以来、チュ氏のもとには日韓両国、さまざまな団体からの「購入依頼」がひっきりなしに届くようになった。 韓国の財閥や、誰もが知る大企業の関係者が秘密裏に接触して購入を打診。なかには明確な金額を提示してきた団体もある。韓国の新興宗教団体からは20億円もの大金を提示されたという。 もちろん、日本からも購入の打診がある。韓国人の仲介者を経て、「何件か話を聞いた」とチュ氏は語る。 「どこで知ったのか、ただならぬ雰囲気の韓国人仲介者から『日本のヤクザが80億円で買いたいと言っているから紹介する』と言われました。1ヵ月後には『日本のヤクザが韓国まで会いに来る』と。それを聞いた途端、恐ろしくなって断りました。交渉を辞めると伝えても彼らは引き下がらず、さんざん脅されました」
「絵画を対馬のお寺に渡せ」
日本国内で事業展開をしているパチンコ会社の会長ともチュ氏は韓国で面会。また、購入オファーのなかにはこんな変わったケースもあった。 韓国人窃盗団によって盗まれた「観音寺」(対馬市)の観世音菩薩坐像。現在、仏像は韓国中部瑞山市にある浮石寺が所有している。韓国の最高裁は返還を命じる判決を約1年前に下しているが、浮石寺側は仏像の返還をせずにいる。その浮石寺から、チュ氏のもとに依頼があったというのだ。 「浮石寺の住職と顧問弁護士に会いました。彼らは『仏像を韓国に残すため、代わりにあなたの絵画を対馬のお寺に渡せ』と言い出したんです。なぜそんなことを私がしなければならないのか聞くと、住職は『うちのお寺に来ればいつでも仏像を拝めるようになるぞ』と……。その場でお断りしました」 そのほかにも、韓国の文化財庁から「文化財として申請してほしい」といった依頼もあり、頭を悩ませていたチュ氏。国宝級の絵画を個人で所有していることには「荷が重い」と感じてはいるが、「絵画は日本に戻すべき」という思いは強い。 そこで最近になり、チュ氏が相談を持ち掛けたのが、昨年急逝した山根明氏の妻である智巳さんだ。韓国から日本にわたった後、日本ボクシング連盟で会長を務めた山根氏は、日本国内に豊富な人脈があるだけでなく、韓国でも有名人なのだという。智巳さんが言う。 「仲介者も怪しい人が多すぎて、誰を信用していいのかわからない。そんな相談を受けて、私のほうに助けて欲しいと連絡があったんです」 現在、智巳さんを通じて日本でのしかるべき購入者を探しているというチュ氏。池大雅の作品が、再び日本の地を踏む日は来るのだろうか。
加藤 慶