敵国に武器を売り、自国の軍隊を壊滅させた武器商人
「死の商人」に祖国はない
だが、こんな話は、ここいらでやめることにしよう。「死の商人」というものが、大体、どんなものかは、一応分ったから、つぎに、「死の商人」の属性について考えて見ることにしよう。 まず、第一に、「死の商人」は、大量の兵器をつくり、この特殊な「商品」を売り、巨額の利潤をつかまねばならない。まさに、「利潤第一!」というスローガンこそ、かれらの合ことばでなくてはならぬ。戦争は、この利潤獲得の手段にすぎないのだから、どっちが勝とうと負けようと、そんなことは、たいしたことではないのだ。 「死の商人」の胸をときめかさせるのは、祖国愛でもなければ、戦争目的の正邪でもない。利潤以外には、かれらは、まったく不感症である。だから、かれらの前には、敵とか味方とかいう区別さえない。あるものは、「商品」の買手だけだ。 二〇世紀が生んだ最大の皮肉屋の一人、バーナード・ショーは、こういう「死の商人」の属性を一人の劇中人物のなかに、みごとに描き出した。ショーの戯曲『バーバラ少佐』の主人公バーバラの父親アンダーシャフトは、兵器製造業者であるが、このアンダーシャフトが金科玉条としている信条はつぎのようなものである。 「正当な代価を支払うものにたいしては、その買手がだれであろうと、買手の人物や主義主張にかかわりなく兵器を売る。貴族にであろうと共和主義者にであろうと、虚無主義者にであろうとツァーにであろうと、資本家にだろうと社会主義者にだろうと、強盗にだろうと警官にだろうと、白人だろうが黒人だろうが黄色人種だろうが、あらゆる種類、あらゆる事情におかまいなく、一切の民族、一切の信条、一切の愚行蛮行、一切の大義名分、一切の極悪非道、何にたいしてでも正当な代金さえ貰えれば兵器を売るのだ」。
「ダイナマイト王」アルフレッド・ノーベル
実際は、まさか、これほどでもないだろう、と寛大な評価に傾く人々のために、有名無名の幾人かの「死の商人」の生まのことばを引きあいに出そう。たとえば、有名なダイナマイトの発明者であり、その発明品で巨利を博し「ダイナマイト王」とさえ呼ばれるに至ったアルフレッド・ノーベル(Alfred Bernhard Nobel)(一八三三―一八九六)―― このノーベルが遺言で「平和賞」をもふくめた「ノーベル賞」を制定し、その大量殺戮用商品の生産からあがった巨額の利潤をこれにあてたということは、古今東西をつうじて、最大のパラドックスであり皮肉である―― そのノーベルはこういっている―― 「私は世界の市民である。私の『祖国』はどこかといえば、私が仕事をするところは、どこでも私の『祖国』だ。そして、私は、どこででも仕事をする」と。いいかえれば、ノーベルにとっては「祖国」はあるが、同時に、「祖国」はないのであった。