他にもいる?オスとメスで生殖器が逆の虫 イグノーベル賞の吉澤氏に聞く
雌が交尾相手を探して動き回るトリカヘチャタテムシ
――そのトリカヘチャタテムシについてうかがいます。雄雌の定義にペニスは直接含まれてないのですが、辞書的には、体内受精をする雄の象徴として紹介されています。その男性器が雌にあって雄にない。こうした進化的新奇性は、とても珍しいです。要因は何だったのでしょうか?一体どのようにして雌が男性器を進化させていったのでしょうか。 吉澤:雌にペニスがあるムシがいたということは、他にも雌が男性器を持った生物がいておかしくないということです。しかし、圧倒的に少数でしょう。いずれにしても雄にあったはずの男性器が退化し、雌の男性器が進化するまでにあるはずの中間段階を考えると、何がどうなって、この状態を可能にしたのかということは非常に興味がありますね。 チャタテムシ類は普通、「雌が上、雄が下」という交尾スタイルをとっています。トリカヘチャタテムシが特別というわけではないのです。それに加えトリカヘチャタテムシは繁殖のために動き回って相手を探す方が雌、相手を待つ方が雄という、一般的な雌雄とは逆の関係性を築いていたことが、雌のペニスの進化に移行しやすかったのではないかと考えています。 他の生物でも雌主導の交尾はありますが、男性器が生えるほどに進化した生き物は今のところトリカヘチャタテムシだけですから、おそらくそこには1つではなく、いくつもの前段階の進化があったはずだと考えています。前述の交尾姿勢もその1つと考えています。(エサがほとんどなく乾燥した洞窟という)貧栄養の過酷な環境であったことも重要な意味を持ちますが、交尾器の進化を可能にするには、もっとクリティカルな要因が本来はあるはずだと考えています。
交尾後も雄は生きていて別の個体とも交尾か
――トリカヘチャタテムシは交尾の際に、雌のペニスをオスの生殖器に差し込み、雄の精包(精子が入ったカプセル)を受け取ると聞きました。精包には雄由来のエネルギーも含まれており、雌はそのエネルギーを排卵に利用するのだろうと論文で考察なさっていました。カマキリやクモなどでは交尾後に雌が雄を食べるという儀式を見られたり、産卵後に絶命する生物がいることを考えたりすると、トリカヘチャタテムシの雄も雌に精気を吸い取られたあと、絶命してしまうのでしょうか。 吉澤:交尾後、雄雌とも別の個体と交尾をしますので、雄は生きているはずです。また性比が雄に偏っている様子はないので(雌雄はほぼ同数いるようなので)、そうした観点からも雌雄どちらとも複数回、交尾をしているのは間違いないようです。また交尾の度に精包を吸われているのではという話については、雌が吸い出しているわけではなく、精包を受け取る、もしくは雄が送り込んでいるのではないかと考えていますが、生きたトリカヘチャタテムシの交尾を詳しく観察する機会が必要です。